一.ジョン・レノン
大阪に行く度、早くから気軽に呑ませる店が多くて羨ましかった。そりゃ都内でも呑もうと思えば朝から呑める。ビールくらいなら大抵の店にある。でも大事なのは「気軽」かどうか。定食屋だとそうはいかない。牛丼屋だと浮きまくる。朝から地下街の立ち飲みでサクッと十分。アレが本当に羨ましかった。
ここ最近、都内ではチェーン店の立ち飲み屋「B」が増えている。朝から、は難しいが夕方前にはオープン。本当に増えた。数年前、わざわざ大井町まで足を伸ばしたのが懐かしい。もちろん低価格は魅力のひとつ。品数も多い。ワンコインあればサクッと楽しめる。ただ真っ先に挙げたいのは、その敷居の低さの方。立ち飲み独特のアクやクセは解放され、老若男女のうち、「若」×「女」な客が普通に楽しんでる。じゃあ薄味でライトで軽め、平たく言えばつまらないのか。答えはノー。
中年男女がジャニスジョプリンの「Move Over」を熱唱していたのは高円寺店。結構な声量だったがさほど気にならず。意外と上手かったからかもしれない。新宿店は案外おとなしめ。仕事中らしき客もチラホラ……。こんな具合で場所それぞれの味が出る。妙なアクやクセなら解放した方が多分ベター。
ジョンかポールか、と訊かれたら食い気味に「ポール」。勿論ビートルズの話。ジョンのアルバム、最近聴いてない。ヨーコはたまに聴く。六枚入りボックスセット『オノボックス』(‘92)持ってるし。リンゴは意外と聴く。やっぱりサード『リンゴ』(‘73)がいい。ポールとジョージに関しては年々聴く回数が増えている。
ジョンは実際の音以外のアレヤコレヤ、例えばキャラとかエピソードが少し面倒。だから耳が遠のく。ただ先日、出先で耳にした『ロックン・ロール』(‘75)は例外。オールドロックンロールのカバー集なので、キャラやエピソードから解放され、ただのロック・フリークなジョンを堪能できる。曰くの多いアルバムだが、そんなの知らなくて大丈夫。彼のシャウトと伸びやかな声に御託は似合わない。
【Peggy Sue/John Lennon】
二.李博士
味がある、というか濃い味の店で浮かぶのは池袋の角打ち「L」。常連さんが店の前で呑んだりしてると少々入りづらい。変形卓の上にはスーパーから買ってきたマリネハムやキムチ。毎回「食べていいからね」と言って頂ける。もう少し通わないとな。
年齢層は少々高め。場所柄か棚には高級シャンパンが数本。決して広くない店内も興味深いが、やはり主役は人。還暦オーバーの御婦人が、オブラートに包まず下ネタを繰り出し、場をガンガン回していく。店頭から戻ってきた常連さんが茶々を入れ更にヒートアップ。濃密なのに開放的。案外こういう店は稀有。濃密さって内向きになりがち。ちなみに此方の大瓶は、都内最安レベル。
DEEP、と称される濃密さにヒトは弱い。勿論、個人の感想です。まあ「怖いもの見たさ」という言葉もあるし、あながち間違いではないような。DEEP、という触れ込みで聴いた音楽――初期ファンカデリックやジム・フィータスやスクエアプッシャーは全部凄かった。でも感触は内向き。いや、内向きだからこそ凄かった。強烈な信念と美意識に迷い込むのは楽しい。
DEEP、だけれど開放的な音楽はきっと少ない。あまり浮かばない。今、浮かんだのは李博士。韓国の大衆音楽・ポンチャックの第一人者。現在還暦オーバー。仕組みは不明だが聴いていられる。何かに迷い込んでいるのは確かだけれど、風通しはとにかくいい。勿論、DEEP。
【????(Space Monkey)/李博士】
三.吾妻光良&ザ・スウィンギン・バッパーズ
幼かった頃、具合を悪くして寝込んでいると友達が見舞いに来て、シングルレコードを貸してくれた。シブがき隊の「スシ食いねェ!」(‘86)。長らく理由が謎だったけど、最近少し分かる。滴るようなラブソングや変革を促すメッセージソングは見舞いの品に不向き。似合わない。軽めのヤツがいい。クスッとするくらい。大爆笑する音楽はそうそうない。クスッでいい。
それでいて音が好みとなると、なかなか思い浮か……んだ。日本が誇るブルースバンド。吾妻光良&ザ・スウィンギン・バッパーズ。結成三十五年越えだから、味わい深い。アクもくせもある。吾妻氏のギターの斬れ味は抜群。薄毛のギタリストの中で一番格好いい、と評していたのは誰だっけ。そして結成三十五年越えながら、お茶目。クスッではなくゲラゲラの瞬間も多い。
確かにクサクサしてる時に聴くと効く。少し快方に向かう。あくまで個人の感想です。
三ノ輪の角打ち「S」の支店が神田にある。とにかく店内が綺麗。携帯電話専用のコンセントもある。至れり尽くせり。とても立ち寄りやすい。先日もちょいと一杯のつもりで入店。日本酒、軽く呑みたかった。
何にしようかな、と短冊をチェックしていると不思議な名前を発見。「獺祭 島耕作」。あら高級品、と思いきや\300。説明書きによると……七月の西日本豪雨で酒蔵が浸水→三日間停電、七十万本分(!)が出荷不能に。味は旨いがそのままでは売れないので、同郷の漫画家・広兼憲史氏の代表作「島耕作」シリーズのラベルを付けて格安値(四合瓶で\1200)で販売/中身は内緒のクジ方式。被害の大きかった自治体への寄付にもなる。なるほど、と素直に感心。こういうニュースを仕入れられるのも、角打ちの魅力のひとつ。好きな時間を過ごすことが、被災地が快方へ向かう微かな力になるのなら……ちょいと一杯じゃ済まなくても仕方ない。
【やっぱり肉を喰おう/吾妻光良&ザ・スウィンギン・バッパーズ】
寅間心閑
■ 吾妻光良&ザ・スウィンギン・バッパーズのアルバム ■
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■