一.バッド・ブレインズ
やはり一辺倒では物足りない。多面多角、多重多層の方が好み。飽きないし、面白いし、噛んだら色んな味がしそう。ミルフィーユ仕立て。ワクワクする。音楽も呑み屋もそうでなくっちゃ。
アフロ・パンクのボス、バッド・ブレインズが奏でるハードコア・チューンは少々難解だった。重くて速いだけではなく、捻くれてるのがその理由。元々フュージョンの雄、ウェザー・リポートのコピーをやったいたと知って納得。演奏上手くなきゃ、あんなに捻れない。それに加えて謎だったのがアルバムの構成。怒涛の爆音が続く中、前触れナシで突然レゲエ・チューンが挟まる。十代の耳にはこれがまあカルカッタ、もとい、かったるかった。
でも当時はカセットテープ。早送り/巻き戻しが少々面倒。なのでカルカッタの川に浸からざるを得ない。昔、偏食はこうやって治された。それから十余年、ベスト盤『バンド・イン・D.C.』(‘03)では、複数のレゲエ・チューンを最後にまとめるという荒業使用。聴いて何だかモヤモヤしたのは偏食が治った証拠。
師曰く「音楽と酒って切り離せないじゃん?」。さすが、と感心したりはしないが分からなくもない。だったら、とペン&林檎をギュッとするように、レコード屋と立呑み屋をミックスしたのが新代田「E」。個々は好み。肴もレコードも興味深い。でもミックスの仕方が劇的にシンプル。ギュッとしただけ。勿論これは褒め言葉。変に取り繕わない空間が個人的には気持ちいい。所謂コロンブスの卵。音楽を流す店は多いけど、売ってる店はなかなかない。
【I Against I / Bad Brains】
二.ジェームス・ブラウン
今「JB」といえばジャスティン氏のことらしい。そういや「MJ」も違ったしな。これはギャップではなく多重多層。そう思えばワクワクしてくる。
我らがゲロッパ、ジェームス・ブラウンは二刀流。しっとりと濃いめのバラード、そしてキレッキレのファンク。勿論、何時間聴いてても飽きないのは後者。超アナログなグルーヴは実に多面的。何度聴いても/どこから聴いても腰にくる。やっぱりいいよね、手仕事。才能がなければ出来ないこと、即ち代わりが利かないことに金と時間は費やしたい。
後輩のスライやPファンクよりも渋いグルーヴ。スライのような旋律のメリハリも、Pファンクのような音色のミラクルもない。でも退屈ではない。大人の嗜み。
但しゲロッパ先生、少々リリースが雑。多作の極み、被りトラックも多い。名作の誉れ高い『ライヴ・アット・ジ・アポロ』(‘63)も曲に少々波がある。結果、現時点で一番のお気に入りは編集盤『イン・ザ・ジャングル・グルーヴ』(‘86)。1969年?72年頃、即ち絶頂期の良いところを良い状態で陳列。いやあ、いい仕事です。もしも、手仕事の妙味に魅せられたら、迷わず四枚組ベスト『スター・タイム』(‘91)を。これもかなりのいいところ取り。
例えばワイン。あまり考えずに呑んできたからよく知らない。困るのは人に贈る時。スマートに選ぶのが大人の嗜みと毎度頑張ってみる。店の人に好みと予算を告げ、「コチラは?◯◯」「コチラは?△△」と教えてくれるのを「ホウホウ」「ヘエヘエ」と深刻な顔で相槌を打つ。最後はアレだ、タイミング。飽きる手前で決めちまう。まあ、あまり得意じゃない。でもこれ、呑みながらだと案外面白い。
神楽坂のイタリア食材屋「D」は角打ちが出来る。肴はピザ。なみなみに注いだワインが300円。そいつをチェイサー代わりに、色々試飲をしながらの「ホウホウ」「ヘエヘエ」は楽しい。飽きない。気付けば自分の分まで買っちゃった。
【Give It Up Or Turnit A Loose /James Brown】
三.ザ・ブーム
都内に限らず全国で店舗を増やす立呑み「D」。その名の通りドラム缶を卓代わりに、安心価格で呑ませてくれる。チューハイ\150、お世話になってます。チェーン店を感じさせないラフな店構えも好み。ここの池袋店はネパールの御夫婦がやっていた。そう、過去形。ビザの再取得で帰国中らしい、と近場の角打ちで噂されていたが閉店。残念。通常メニューに加えて、ちょこんとネパール風味の肴があるのがよかった。
似ているのが東中野の立呑み「K」。此方は元々インドカレー屋。なので冷奴やトマトに混じってシシカバブやタンドリーチキンがある。ネパール風ソース付水餃子\230は殆どモモ。厨房に「モモソース」って伝えてたし。このソース、粘度が高くて量が多いので、チビチビやるにはもってこい。こういう自然発生的な多面性は面白い。枠が広がる感じ。
ザ・ブームが二十八年目(!)に解散するとは夢にも思わなかった。スカ、沖縄民謡、ボサノバ等々表現方法の枠をグイグイ広げ、まあ何をしても驚かない稀有なバンドだったので解散とは無縁な気がしていた。
特に『フェイスレス・マン』(‘93)、『極東サンバ』(‘94)、『トロピカリズム -0°』(‘96)の三枚は、未知の音楽の宝庫。今もよく聴く。多層構造の音楽、原義としてのミルフィーユ。即ち、千枚の葉。
様々な衣に着替えながらも、いつも芯にあるのは宮沢和史のシアトリカルな歌。それはデビュー前のホコ天時代から変わらない。企みと野心に満ち溢れた活動を、メジャーフィールドで展開する姿は、形容詞としての「ロック/パンク」そのものだった。
ロックンロールは耐久性に優れた容器でしかない。何を入れても大丈夫だけど、何も入れないとペシャンコのまま。その姿は醜悪で滑稽。みんな、本当は知っている。
【Far east samba / THE BOOM】
寅間心閑
■ バッド・ブレインズのアルバム ■
■ ジェームス・ブラウンのアルバム ■
■ ザ・ブームのアルバム ■
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■