第03回 文学金魚新人賞受賞作家 原里実さんの連作短篇小説『水出先生(下編)』をアップしました。『水出先生』完結です。原さんについては現在文学金魚で処女小説集の準備が進んでおります。まー何事もゼロから1に進むのは大変でありまして、それは作家さんだけではないですね。文学金魚の方もそれなりに大変で、細かい作業の積み重ねです。予想外のことも起こるわけで、それなりに山あり谷ありです(爆)。
だいたい、きょうは最初からついていないのだ、と改札に向かって歩きながら、わたしはひとり考える。コンタクトレンズを落としたときからそれはわかっていた。ついていないのだから、こんな日に福引きをするべきではなかったのだ。
そういえばわたしの前の人、一度しか引いていないのに、わたしと同じ百円券が当たっていたなあ、と、わたしはくだらないことが気になりはじめる。そうだ、あのときわたしは福引き所の手前で、持っている券がこれで全部だろうか、と枚数を確かめていたのだ。もしもわたしがそんなことをしないでさっさと列に並んでいたら、わたしはあのひとの代わりに福を引きあてただろうか、と考える。わからない、あれはあのひとの福であって、わたしの福ではないのかもしれない。
(原里実『水出先生(下編)』)
『水出先生』にはこの記述が3、4回は出てくると思います。それがすごく効いているのは原さんが本気だからです。ちょっと説明しにくいですが、作家が本気で書いていないとこういうリフレーンのスリップは読者に訴えかけません。単なるテクニックではダメなのです。
んで金魚では原さんを始めとした単行本に続く出版計画を、現在喧々諤々で進めています。どういった本を出してゆくのか、その基準は何かをブラックボックスにするつもりはありませんが、とても説明するのが難しいのは事実です。
版元が今の読書界でどういった本が受け入れられるのかを考えるのは当たり前です。ある程度までは論理的に分析します。ただ最終判断は勘です。それ以外に表現しようがない。昔から出版には博打の面があると言いますが、確かにそういう所はあります。
ただそれは作品に〝華〟があり〝ウリ〟があると確信できれば、うんと話しが早くなります。もちろん20代30代の若い作家にそういった客観的自己判断を求めるのはちょいと酷です。ただ40代を超えたら必須です。才能と一口に言いますがその質は様々です。若い作家は無意識的才能でいいですが、40代以降はまず作家が自己の才能に確信を持っていなければなかなか難しくなるのは確かでしょうね。
■ 第05回 金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)応募要項 ■
第0回 金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)応募要項です。詳細は以下のイラストをクリックしてご確認ください。
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■