赤坂真理の特集である。普通でいえば、あまりピンとこない。が、文藝はあえて同人誌カルチャーを狙っていて、「手の届くアイドル」ならぬ「手の届くところにうろうろしている感じの作家を特集しました。」というのもよくやるそうだ。
でもそれはそんなに徹底してなくて、ときどき古井由吉特集とか混じる。河出書房新社から本が出れば特集する。ウチの同人には古井由吉がいるんだ、みたいな。勢いのある同人誌で、よろしい。
で、今回も本が出たので、その特集。あんまりやってると、どっかの自費出版屋が出してる詩誌みたくなってしまうま。ってか、するってえとなにかい、河出書房新社ってのは、春夏秋冬の年四冊しか単行本が出ないのかい。あとは小出版の販売の肩代わりしてるって、そういうカタイやり方も悪くないねぇ。
ともあれ、長く連載していた大作が完結したとのこと、なんか9年ぶりとかで、まずはめでたい。赤坂真理といえば、失礼ながら色モノというイメージがある( らしい )。それが『東京プリズン』という戦後を問う、みたいな社会派の本ができた。
もちろん「16歳の女の子から見た戦後」みたいな、作家の従来路線と接続する仕掛けはまあ、してある。インタビューを読めば、女性とか母性とかと「戦後」みたいなことにも触れてある、とーぜん。
それで僕はまだ、その単行本を読んでない。これは文藝秋号の時評だから、そこまで読むと情報過多になる。で、文藝秋号を読んで、その本を読む気が起きるかというと、むしろ失せる。これだと何のためのご祝儀特集なのか、わからない。
実際には、素晴らしい本かもしれない。そうであってほしい、と本気で思う。女性が長いことかかって、それも9年ぶりに出したというのだ。僕はそんなに意地悪じゃない。
だけど本自体のせいなのか、インタビューなどの記事が悪いのか、作家の強いメッセージというか、何を書きたかったのかが伝わってこない。すごいんだ、力作なんだと言われても、そもそも今なんで「戦後」なのか。なんで16歳の女の子なのか。それがどうにも、単なる折衷主義のように映る。
あるいは出版社の意向と編集人の勘違いと、延命のための作家の戦略が合致しただけ、とも。色モノ扱いされているところから、かなり遅ればせながらでも「戦後文学」= 文壇をうかがいたい、というのは、文藝という雑誌の都合そのものだし。
赤坂真理の『ヴァイブレータ』に主演した、女優の寺島しのぶに、赤坂真理は似ている。見た目の雰囲気も、色モノとしてしかデビューしようがなかったという切迫感も。演技派として評価が高い寺島しのぶは、歳とったら大女優になるだろう。物書きは俳優とは違って、さらにたいへんなものだが、赤坂真理の真の飛躍を願っている。
水野翼
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■