第02回 文学金魚奨励賞受賞作 ルイス・キャロル著 星隆弘訳『アリス失踪!』(第13回 訳者あとがき)をアップしましたぁ。『アリス失踪!』の翻訳は完結しましたが、最後に星さんの『訳者あとがき』をアップします。大胆で思い切った『アリス』翻訳の意図を説明しておられます。
『不思議の国のアリス』を翻訳するうえで取り決めた約束事、「アリス自身によって翻訳されること」について書こうと思う。(中略)ある午後、作者ルイス・キャロルは懇意にしていたリデル家の幼い娘たちと舟遊びに出かけ、そこで次女アリス・リデルを主人公にした即興の物語を語ってきかせた。アリスはその物語を気に入って、つづきをせがんだ。キャロルはアリスのために装幀からなにからこだわった手作りの本を作った。その一冊にさらに筆を加えて仕上げたものが『アリス』である。つまり、『アリス』はその「オリジナル」に大きく二度、キャロル自身の手が加えられていることになる。(中略)「アリス自身によって翻訳されること」とは、この午後の出来事、即興作品『オリジナル・アリス』が最初の読者によって受容され、読者の想像世界ではじめて像を結んだときの姿を訳文に再現し、100年以上に及ぶ『アリス』日本語訳の蓄積のなかに差し込む試みである。
(星隆弘『アリス失踪!』翻訳の痕書)
ルイス・キャロル大先生は、現代のステレオタイプな切り方をすればロリコンおじさんといふことになるだろうなぁ。ただ彼は少女の中に、この世のものではない聖なるなにかを見出していたようです。星さんが書いておられるように、キャロルはまずアリス・リデルのために『アリス』を書いた。肉筆本がリデルにプレゼントされ、その後、キャロルの手によって納得のゆく〝作品〟にまで昇華されたわけです。キャロルがまず声で物語を話し、リデルの声が物語を促し続いていったことを考えると、星さんの試みは『アリス』初源に回帰する刺激的試みだったと言えます。
また石川は『アリス失踪!』を読んで21世紀のポスト・モダン社会における二次創作について考えさせられるところがありました。二次創作はエヴァなどのキャラを使ってお遊びをするなどサブカルでよく使われる方法ですが、これは社会全体に広がるだろうなぁ。ボルヘスのドン・キホーテの解釈が現実になろうとしているのだと言ってもいいです。
もちろん今でも紙とペンで書いておられる作家は大勢いらっしゃいますが、よほどそれを戦略的に考えた作家を除いて、今後半世紀ほどで誰もがパソコンで書くようになると思います。そしてパソコンはインターネットにつながっている。比喩的に言えばわたしたちは文字だけでなく画像や動画を含む巨大な図書館の中で作品を書くことになる。それは必ず創作の質を変えます。唯一無二のオリジナリティは死んだと一度は心の底から断念しなければ、新たなオリジナリティは生まれないでしょうね。はっきり時代は変わり始めているのです。
■ 第02回 文学金魚奨励賞受賞作 ルイス・キャロル著 星隆弘訳『アリス失踪!』 (第13回 訳者あとがき) 縦書版 ■
■ 第02回 文学金魚奨励賞受賞作 ルイス・キャロル著 星隆弘訳『アリス失踪!』 (第13回 訳者あとがき) 横書版 ■
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