佐藤知恵子さんの文芸誌時評『No.024 オール讀物 2015年10月号』をアップしましたぁ。井上荒野さんの『古い日記』と石井光太さんの『鶯の鳴く家』を取り上げておられます。井上さんの『古い日記』は、ある女性の回想形式の小説です。『あたしは十九で(中略)正輝だって、二十二歳だったのだ』とあります。あたしはお弁当屋さんでアルバイトをしていて、正輝にナンパされたのでした。正輝はいわゆるオレオレ詐欺の受け子の仕事をする男でした。
「あたしたちは二つの卵だった」とあるように、あたしはいつかハンプティ・ダンプティのように塀の上から落っこちて、二人の生活が壊れてしまうことを予想しています。(中略)しかし卵であった時期、言い換えれば極限まで外の世界を遮断して、二人きりでいた繭のような世界に愛がなかったとは言えません。(中略)だから「これは愛じゃないと、心の奥底でひそかに認めていたのかもしれない」というあたしの告白は反語です。(中略)あたしは相変わらず必ず壊れてしまう脆い卵のような愛に惹かれています。正輝との関係は「愛じゃない」と回想しながら、あたしは恐らく今に至るまで別の〝愛〟を見つけられていない。
(佐藤知恵子)
石川も井上さんの『古い日記』を読みましたが、確か短い小説だったといふ記憶があります。30枚くらひだったんぢゃないかなぁ。でも長さ以上にインパクトと余韻のある作品でした。オール讀物掲載のエンタメ小説といふ体裁ですが、純文学と言っていいですね。
文学金魚的には、文学の中の〝最も純なる要素〟が含まれている作品が純文学です。掲載メディアやホラー、ミステリー、サスペンス、SFなどの文学ジャンルによって、純文学とエンタメ小説が区分されるわけではありません。小説が売れなくなるにつれ、出版サイドによる〝ジャンル決め打ち〟、つまり読者ターゲットの絞り込みマーケティングが厳しくなっていますが、そういふ状況になればなるほど、文学金魚のやうな原理主義的メディアが登場するのが健全な文学界のありやうといふものではなひでせうか(爆)。
■ 佐藤知恵子 文芸誌時評 『No.024 オール讀物 2015年10月号』 ■
■ 第04回 金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)応募要項 ■
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