小松剛生さんの連載ショートショート小説『僕が詩人になれない108の理由あるいは僕が東京ヤクルトスワローズファンになったわけ』『第016回 千代の水たまり/信号機だけが残った/ショパン症候群に関する言行録』をアップしましたぁ。小松さんは、詩的ショートショートの名手ですな。この書き方に関してはほぼ出来上がっています。
少なくとも「ショパン」について考えることは、善を為そうとする行為とはほど遠いことのように僕には思えた。強迫観念にとりつかれた天使になるためには、「ショパン」のことを忘れるしかなかった。
僕は「ショパン」のことを忘れるにはどうすればいいか、考えることにした。冷凍庫は壊れたままだったし、下町のルソーに頼るわけにもいかなかった。僕の部屋のカーテンは窓のサイズに比べて、すこし丈が短すぎた。おかげで冬の朝の結露はひどいもので、いつだって窓の近くは湿気まみれだった。その部屋のなかで「ショパン」を忘れることを考えていると、不思議なことになんだかその部屋がピアノ教室になったような錯覚を覚えた。
ピアノはない。通うべき生徒もいない。
それはまさに「ショパン」そのものだったし、一人暮しの冴えない部屋でもあった。天使の部屋と呼ぶには汚れすぎていた。
「なるほど」
その凡庸さをもしかしたら、ショパンと呼ぶのかもしれない。
(小松剛生『ショパン症候群に関する言行録』)
上手いなぁ(爆)。小松さんが恐らく敬愛しているだろう村上春樹さんは、今のような長篇作家になる前に、長編を書くためのプロット立てやテクニックについてかなり苦労されました。転機になったのは『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』でしょうね。ギリギリのところで成立した長篇小説で、その力業が高く評価されました。小松さんは春樹さんを遙かに上回る量と質のショートショートをお書きになれる作家です。この作家が長篇の書き方をマスターしたら、怖ひものなしだらうなぁ。
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