星隆弘さんのエセー『『アリス失踪!』再演によせて』をアップしましたぁ。しばらく前から、ツイッター上のhttps://twitter.com/ALICEs_wndrlandで星さんの『アリス失踪!』が〝再演〟されています。星さんは『アリス失踪!』の意図について、『ひとつは「アリス自身によって翻訳されていること」であり、もうひとつは「最新のアリスの読者によって読まれること」』であると説明しておられます。『最新のアリスの読者』が窪田アリサさんであり、彼女のツイッター上で『アリス失踪!』が再演されるわけです。
再演であることを執拗に繰り返しているのは、本作が「アリス」の最初の受容はだれによるものかという疑問に端を発しているからだ。この受容(読解、想像、解釈)を翻訳という言葉にまで拡大する。アリスが最初にうさぎの穴に飛び込んだのは一体誰の想像の中でなのか。その人の想像の世界ではアリスはどのような女の子だったのか。テニエル以前。執筆以前。原作はキャロルが語り聞かせた即興の物語を種にしている。それを聞いていた午後の舟遊びの相手はアリス・リデルといった。
『アリス失踪!』の〝再掲載〟ではなく〝再演〟であるのは、『この再演は読書行為の再現ないし再生産』だからです。ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』は古典中の古典作品です。キャロルがアリスを生み出したわけですが、そのビジュアルイメージはテニエルの挿絵によって強力に規定されています。またキャロルのアリスを巡っては、その数千倍の翻訳や研究書が出版されています。そのようにして重層化する〝読解、想像、解釈〟なしにもはやアリスは語れません。また一方でキャロルがアリスを話したのは、〝アリス・リデル〟という一人の女の子に対してでした。〝『アリス失踪!』再演〟は、テキストの重層化を踏まえた上で、その決して辿り着くことのないオリジンへの遡行の試みのようです。
アリサさんには再演時の「アリス」というテキストを「アリサ」と言い換えることを許可した。「アリス」の物語はアリスを名指すところから始まる。それは声に対する名指しである。よって再演テキストの「アリサ」は「アリス」と読んでも(聞いても)いいのだが、ここでどちらの声を選択するかという疑問が浮かんだのなら、再演はひとまず成功している。
キャロルのアリスは、文学の世界ではもはや完全に〝公的なテキスト〟であるからこそ、〝私的なテキスト〟として読解・解釈可能ということでしょうね。星さんの『アリス失踪!』は、無限に拡散しつつ求心的を求めるような新たな〝書物〟になるかもしれません。
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