第2回 文学金魚奨励賞受賞作 ルイス・キャロル著 星隆弘訳『アリス失踪!』 (第01回)をアップしましたぁ。キャロルの『不思議の国のアリス』は一説によると『聖書』に次いで読まれた本ださうです。翻訳も多く、石川の本棚にも5、6冊の訳者が違う『アリス』が並んでおります。星さんの『アリス失踪!』はその中でも異色で、翻訳と創作のギリギリの線を衝いておられます。
ポスト・モダニズム理論が限られたインテリたちの専有物から、ごくごく常識的な通念になったのは最近のことです。むちゅかしく考えればいくらでもむちゅかしい説明のできる理論ですが、要は「神(特権的中心概念)」の(い)ない世界観のことです。これを一番具体的に表現しているのがインターネット世界です。複雑に絡み合った情報が無限に広がる世界であり、その中にまた無数の情報突起点がある。情報が集約すると突起点になるわけですが、政治・経済からサブカル、カルチャーに至るまで、あらゆるジャンルに無数の情報突起点が存在します。
そこに参加している人にとっては情報突起点が世界そのものですが、相対化して見れば世界の中の一情報集約ポイントに過ぎません。世界全体を統御する大きな軸は存在しないのです。もそっと正確に言うと、無限の情報突起点が激しく生成・消滅し続けているにも関わらず世界が混乱しないのは、突起点群を一定方向に統御するある力が働いているからだと言えます。ただこの力を新たな「神(特権的中心概念)」と捉えるかどうかは各文化共同体によって異なるでせうね。
ポスト・モダニズム世界では情報は基本的に等価です。つまり日本の欧化主義やヨーロッパのジャポニズムのような、情報不足による幸福な文化的出会い(誤解)は生じにくい。あらゆる情報は簡単かつ正確に大量に入手することができます。19世紀から20世紀にかけてのインテリたちの前衛は、悪い言い方をすると語学力を活かした「知の密輸入」といふ側面が確実にありました。しかしそのような知の囲い込みはポスト・モダニズム世界ではできません。オリジナルが存在することを前提に、引用・二次創作・パラレル創作が盛んに行われている理由です。
星さんの『アリス失踪!』は、このようなポスト・モダン世界の流れを踏まえた意欲的試みだと文学金魚では評価しました。もちろん一作品の翻訳で何事かを明確にすることはできません。ただ文学金魚奨励賞が星さんの今後の仕事に少しでも寄与できればいいなと思います。なお『アリス失踪!』の写真も星さん撮影作品です。
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