菜穂実さんのジェットコースター小説『ケータイ小説!』(第32回)をアップしましたぁ。物語も大詰めで、いよいよ謎解きが始まりました。しっかし菜穂実さんの『ケータイ小説!』はサスペンス小説であり、ジェットコースター的青春小説でもありますので、謎解き以外のびっくら展開がありさうです。推理・サスペンスの体裁をきっちり踏みながら、それ以上のレベルに作品を押し上げやうとすることころは、露津まりいさんと共通していますな。
んでまあ、小説の書き方についての四方山話です。小説は一人称一視点と三人称一視点が基本的な書き方です。一人称一視点は「私」が主人公になるので、基本的にすべて主人公の心理であり主人公が見た光景です。三人称一視点は「彼・彼女」が主人公ですが、小説の地の部分が生じます。ここは無人称で書かれるわけですが、主人公の心理や状態を相対化する情報をスリップさせることができます。一人称一視点よりも融通が利く書き方であり、長い作品を書く時は三人称一視点が基本になります。一人称一視点は基本的に私小説の書き方なので、工夫しないと五十枚を越えたあたりから苦しくなってくる。ただきっちり一人称一視点と三人称一視点の方法をマスターしないと、作家は内容以前の技術面で伸び悩みます。
菜穂実さんの『ケータイ小説!』はまるこちゃんが主人公の一人称一視点小説です。ただ主人公まるこちゃんの独白が、実質的に三人称一視点小説の小説の地の部分のように処理されている。私小説のように主人公の内面深くを描かないことで、すべて主人公の独白であるはずの内面描写を客体表現化しているわけです。だから『ケータイ小説!』は長篇の長さでも書ける。これは簡単なようで高度なテクニックです。最初から最後まで同じトーンで小説を統一するのは意外に難しいのです。小説は内容だけで成立する芸術ではありません。技術がともなわなければ、どんなに素晴らしい内容を抱えていてもそれは伝わらないのです。