最近のテクノロジーの発展と言いますか変化は凄まじいですわね。AIが実用的になっているのは文学金魚で小原真紀子さんが『エンニスとの対話』を連載しておられることからもわかります。話し相手のエンニスさんは対話型AI Grok(グロック)です。エンニスさん、知的ですわぁ。人間が必要ないくらいと思ってしまうのはアテクシだけかしら。
もちろん人間の成長には生身の人間が不可欠です。人間の声、温もりなどがなければ成長はどこか歪になってしまうでしょうね。でも大人になるとどうかしら。利害が対立するビジネスではそうもいかないと思いますが、知的作業での対話って最終的には自己問答のようなものだと思いますのよ。話すことによって自分の考えをまとめてゆく面があります。活用方法によってはAIとの対話の方が生身の人間と話すより効率的ということは十分あり得ますわね。
そそ、それにトランプ政権よ。このコンテンツがアップされる頃にはトランプさんのアメリカ大統領就任式が終わっていますわね。誰もが世界が変わるだろうと予感しているわけですが、アテクシが注目しているのは暗号通貨への対応よ。
金本位制は大昔の話になって今は各国政府が兌換紙幣を発行しています。この現状のcurrency、お金がトランプ政権以降に大きく変わるかもしれません。今は多くの人が暗号通貨をうさんくさい投機商品くらいに考えているわけですが、暗号通貨に国境はありません。もち暗号通貨も様々で世界初の暗号通貨ビットコインは今やゴールドと同じような扱いになっています。当初の世界共通通貨の役割は果たせなくなっていますわ。でもほかの暗号通貨がそういった役割を担う可能性大でございます。
アメリカは暗号通貨を国家備蓄金にする動きを見せていますが、これはもしかすると早い者勝ちね。日本政府と違って利確も早いですから財政赤字をドンと減らすことができるかも。今は現行currencyの下に暗号通貨があるイメージですが、すんごい乱暴なことを言うと各国currencyの上に暗号通貨が位置する可能性がございます。さーどの暗号通貨がそういった役割を担うのかしら。用途によって複数の暗号通貨がメインストリームになりそうよ。個人も企業も暗号通貨をポートフォリオに組み込む時代になりましたわ。今のところちょいリスク高めですけど。若い頃はこんな世の中になるとは思ってもみませんでしたわねぇ。
「田鍋さん、また不合格だったのか」
朝のホームルームで、担任のモリモリが露骨に嘆息した。
「すみません。来週まで貸してください」私は顔をうつむかせ、そう答えた。四方八方から嘲りの視線を感じる。
トゥオネラは一台あたりの単価が高額なことと、まだ試験導入の段階であるため、成績が悪い生徒にだけ補習用として貸し出されている。
でも、同学年でこれまでに利用したのは自分だけだ。学校が持っている五台のトゥオネラのうち、001とナンバリングされたものは〈田鍋梨香専用機〉と陰で呼ばれていることも知っている。
「あれは使わないで済むなら、そっちのほうがいいんだがな」
「・・・・・・すみません」身を縮め、そう繰り返した。
相川英輔「アフター・アワーズ」
相川英輔さんの「アフター・アワーズ」は近未来小説です。今よりAIや脳科学が発達し、試験段階ですが睡眠学習が実用化されたのです。それがトゥオネラで、「トゥオネラは、脳に直接情報を送り込むことができる「ブレイン・マシン・インターフェース」と呼ばれる機器の一種だ。睡眠中にヘッドセットを装着し、脳に特定の信号を与えることで、眠りながら仮想空間で学習が行える」とあります。
大昔、ちょっとだけ睡眠学習が流行ましたわね。目に見える形では、まぁぁぁったく効果なかったですけど。覚醒時と同じように脳が働いたのでは睡眠が奪われてしまい人間は死んでしまいそうですが、もし深層心理にインプットできる技術が発見されれば学習補助くらいにはなるかもしれませんわね。
で、主人公は中高一貫の有名私立に通う中学二年生の田鍋梨香です。梨香ちゃん、落ちこぼれです。勉強も運動も人並み以下。トゥオネラの導入に対して従来通りの教育を唱える教育原理主義者たちの強硬な反対運動が起こっているのですが、梨香の学校ではいち早くトゥオネラを導入しました。トゥオネラ使用は週一回と決められていますが梨香は補助学習のために毎週のように借りて睡眠学習しているのです。
「梨香さん、ここから逃げて!」ヨウコ先生だ。ひどく慌てている。
「どういうことですか?」
「この世界はもうすぐ圧壊してしまうの」
ヨウコ先生は私のもとに駆け寄り、半ば無理やり立たせた。顔が真っ青だ。
「圧壊?」
「早く! 説明している時間がないの」
「嫌です。教えてください」私は強引に腕を振りほどいた。
「とにかく私を信じて今はついてきて。学校を出たら説明するから」ヨウコ先生は有無をいわさず私の手を取り引っ張った。
廊下に出るのは初めてだった。ただ、肩の関節が外れそうなくらい強く引っ張られているせいで、ゆっくりと校舎を観察する余裕はなかった。上履きのまま外に出て、鉄棒のあるグラウンドを突っ切る。
同
梨香は睡眠学習でヨウコ先生の授業を受けていました。授業は現実世界と同じ教室で行われるのですが、梨香もヨウコ先生も当然アバターです。ただ何度も授業を受けているうちにヨウコ先生の態度がじょじょに変わってくる。厳しく素っ気ない先生だったのが、なんだか本物の人間っぽくなって来たのです。そしてある日の授業で、ヨウコ先生が「この世界はもうすぐ圧壊してしまうの」と言って梨香を教室から連れ出します。ヨウコ先生が人間っぽくなったのもヴァーチャル教室が崩壊するのも、教育原理主義者が仕掛けたサイバー攻撃のせいだったのです。
梨香は落ちこぼれているだけでなく、クラスメートから無視されるイジメを受けています。そのうえ親友だった女の子も去ってゆく。自分に自信がなく、絵を描くのが好きですが有名作家の模写のような絵でオリジナリティを見出せていません。思春期真っ盛りの女の子なのですが、彼女の成長がどのようにトゥオネラ教育とヴァーチャル世界の崩壊と繋がるのかは実際にお作品を読んでお楽しみください。
で、SF的なテクノロジー全盛の近未来を舞台にした小説では、必ずテクノロジーを超えた人間の力が作品の着地点になります。「人間とは何か?」という問いに小説的回答が与えられなければなりません。フィリップ・K・ディックの小説などが典型的ですね。
相川英輔さんの小説は何作も読んでいますがツカミはとってもお上手ね。流行に敏感で積極的に最新テクノロジーを取り入れておられます。そうかと思うと日本の伝統から題材を拾ったりしておられます。
ただ「アフター・アワーズ」の着地点はちょっと物足りない気がしますわね。テクノロジーを超えた、あるいはそれが及ばない人間の能力とは何かという点が、いまひとつ説得力がないと言いますか。あ、でもじゅうぶん楽しめる作品でございます。妄言多謝でございます。
佐藤知恵子
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