一.キャブ・キャロウェイ
家を出て数分、スマホを忘れたことに気付けば大抵は取りに戻る。三分後ならもちろん、きっと駅の改札で気付いても戻る。理由は人それぞれだろうけど、ざっくりまとめれば「無いと困るから」。それだけスマホは頼れるヤツということ。個人的に頼る頻度が高いのは路線アプリと地図アプリ。特に遠出して呑みに行く時は本当に便利。なので目的地が近所のコンビニくらいだと、持っていなくても案外気付かない。
またネット検索で、お店の定休日/開店時刻を知ることが出来るのも有り難い。いわゆる無駄足が減る。まあ、無駄足のおかげで得るモノもあるので、この辺りは微妙なライン。無論全てのインフォメーションが正しいわけではないので、まんまと無駄足を食うこともある。「おいおい今日休みかよ」と閉ざされた店の前で顔をしかめたり、「絶対ここだよなあ」と住宅街の一角をグルグル回ったり。あと何故か縁がないケースもあって、何度も近場まで来ているのに、微妙なタイミングでなかなか入店まで辿り着けないお店が数件ある。
保谷の立ち飲み「B」もその一つ。何故かいつも立ち寄れず、つい先日は最初から諦めてろくに確認もせず通り過ぎた。他の店を目指したけれど、なんとそちらも予想外の休み。とぼとぼ駅へ戻りがてら期待もせずに「B」が入っているビルを覗くと……開いている! 無欲、なんて言葉を浮かべながら入店。此方は韓国料理のお店。肴はチャンジャ385円。綺麗に盛り付けられていて、味もとても美味。今までタイミングが合わなかったことを改めて悔やみつつ、二品目はぜんまいナムル220円をチョイス。はい、予想通り美味。お店の雰囲気もとても良く、近いうちの再訪を誓いながらお会計。トイレがない、という新たなインフォメーションもしっかり追加。
必須ではないが、時折抜群に便利なのが曲検索アプリ。お店で呑みながら、ふと気になる曲が流れた時はすぐ起動。少々うるさい環境でも無問題。瞬時に曲名/アーティスト名を教えてくれる。正に夢の道具。猫型ロボットが胸のポケットから出すレベル。コレのおかげで無駄足激減。まあ、この無駄足こそ実は得るモノがとても多いのだけれど。学生の頃、長く到達できなかった曲がある。東京スカパラダイスオーケストラの二枚目『ワールド フェイマス』(’91)収録の「I Beeped When I Shoulda Bopped “あんたに夢中”」。この原曲がなかなか遠かった。ぼんやりと土地勘のあるロックやパンクではないので大苦戦。ネット検索に頼れない時代、やっと見つけたと喜んだら別ヴァージョン。まあ、これこそ得るモノが多い無駄足。この経験が数十年後に効いてくるのだけど、当時は心底がっかり。顔をしかめていた。ようやく到達できたのは、ジャンプ、ジャイヴの巨匠、キャブ・キャロウェイのヴァージョン。今聴いても心が躍る。
【 I Beeped When I Shoulda Bopped / Cab Calloway 】
二.ザ・スペシャルズ
保谷近辺をグルグルしていた「無駄足」で得たモノは、やはり呑み屋。二駅となりの石神井公園にある「I」は酒屋さん。即ち角打ちができる。店先にテーブルと椅子が用意してあり、日除け対策もばっちり。ホスピタリティ抜群の環境。実は美味しい野菜も買える。お店のオネエサンと話をしながらゆったりしたひとときを。実は初めて訪れた時に、大瓶345円/プラコップ付きという衝撃体験があったことも理由のひとつ。流石に今は400円台になったけれど、それでも十分お値打ち。角打ちは「売り物の酒をその場で飲ませる」というシンプルさが魅力。ただ私が好んで通う店は、どこもホスピタリティ抜群。即ち、お・も・て・な・し。安い肴が豊富、客捌きが抜群などポイントは店々で違えども、大抵ベテランのオネエサンがいて良質の雰囲気を作っている。
昨年末にヴォーカルのテリー・ホールが亡くなり、別のバンドやソロの作品などを聴き返していたが、肝心のスペシャルズは何となく聴く気になれなかった。理由が「何となく」だから、先日デビュー盤『ザ・スペシャルズ』(’79)を再び聴いたのも「何となく」。改めてそのダンスミュージックとしてのシンプルな構造に感心した。歌詞の社会性/メッセージ性にスポットが当たりがちだが、個人的な感覚としてはやはりそれって「プラスアルファ」。少なくとも若い頃、ただ楽しく踊るだけではなく、意味/意義のある音楽で踊ることは重要かつ魅力的だった。それをホスピタリティに喩えては、少々無神経すぎるかもしれないけれど。
【 Too Much Too Young / The Specials 】
三.チャック・ベリー
リトル・リチャードはすぐ好きになったけど、チャック・ベリーには時間がかかった。きっと「ジョニー・B.グッド」(‘58)のせいだ。ルーツを知らないパンクスにとって、あの曲の「偉大さ」は邪魔だった。イントロの有名なフレーズに至っては笑えるネタだった。ただ少しずつルーツを辿り、彼の影響力、そしてソングライティングの凄味を知る中で段々と距離が縮まっていく。ブルースをプレイしたかった、と彼は言う。ただ親友のマディ・ウォーターズのように辛い経験をしていない。だから新しくて、楽しいお祭り騒ぎをやり続けたと。50%の人が興味のある車の歌や、100%誰もが求める愛の歌を作り続けた理由がそこにある。正におもてなし。彼がデビューしたのは29歳の時。意外と遅い。デビュー曲は「メイベリーン」(‘55)。ラブストーリーを車のスピード感でコーティングしたこの曲は、全米5位のヒットとなる。
原稿を書きながら、少し気になったので初台の角打ち「N」まで出かけてきた。此方は以前、大瓶362円の強豪。果たして今は、の野次馬根性でろくにチェックもせず家を出た。もしや無駄足、という悪い予感は外れて無事入店。此方もベテランのオネエサンがいらっしゃる。肝心の価格は410円。やはり強い。以前は21時閉店だったけれど、一時間早まっていた。これは御近所さんへのホスピタリティかもしれない。
【 Maybellene / Chuck Berry 】
寅間心閑
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