一.ラフィン・ノーズ
ここ最近、下北沢は賑わっている。取り戻した、と言う人もいるだろうし、あの再開発の成果、と言いたがる人もいるだろう。個人的な感覚ではカレーと古着が立役者。両方とも本当に増えた。カレー屋は週末たびに此処そこで行列が出来ているし、古着屋は一時期減っていた印象があるので感慨深い。素直に良いことだと思う。こういう街には人がいた方がいい。ただ古い馴染みとは「あの頃」の話をしたくなるだけだ。
再開発の是非なんて、決めるものでも決まるものでもない。そんな小説で華やかな賞を頂戴した手前、複雑化する渋谷駅周辺にも極力愚痴らないよう大人ぶっている。あの界隈、今のところ何もかも分かりづらく、遠くなっている印象。ただ明るいニュースもある。四年前、惜しまれながら幕を閉じた老舗の立飲み「F」が営業再開。少し出遅れたが先日訪問を。場所は以前系列店があった辺り。何度も通ったはずなのに、やはり分かりづらく遠い。二つの店を繋いだという新店舗のスペースはモダン。中の様子が窺えたので手前/左のカウンターへ。何とメニューはQRコード読み取り式。一瞬の微妙な表情を読み取っていただき、「普通に声かけてもらっても大丈夫です」と。お言葉にすぐ甘え、宝焼酎220ミリと炭酸水を生声オーダー。地下の大箱だった以前と比べるとスペースはコンパクト、ただスタッフ数は多くホスピタリティー抜群。古顔は見当たらず。懐かしいメニューを肴に緩みながら、気付いたことがひとつ。此方は無音だが、奥/右側は昭和歌謡らしき音楽。以前は人々の声が反響し、店中を覆いつくす迫力のノイズがBGMだった。氷を貰いがてら炭酸水を追加。良い店です。老舗の復活、という期待を受け入れつつ、トゥーマッチにならない「抜け」の良さがある。以前のように服は油臭くならないし、オーダー時に声を張らなくていい。でもアレだ。古い馴染みと来たら、そんな昔話で盛り上がるはず。
復活を経て以前より良くなるバンドは少ない。無論、個人的意見。特にパンク、ハードコア界隈だと中々難しい。それだけ出現時のインパクトが凄いとも言える。レアなパターンとして印象深いのはラフィン・ノーズ 。
解散後四年を経てのセルフカバー・アルバム『LAUGHIN’ CUNTS UP YOUR NOSE』(’95)で感じた「抜け」の良さは、次作『IF YOU DON’T MIND PLEASE LAUGH』(’95)で更にアップ。音色だけでなく歌詞も爽快に抜けまくり。ファッション・リーダーたるベーシスト・ポンのセンスだろうと予想しながら、飽きずにずっと聴いていた。ラフィンは現在もコンスタントにアルバムをリリース。音は勿論、立ち姿が素晴らしい。
【 BABY GO / LAUGHIN’NOSE 】
二.小沢健二
中野も長く再開発が続いている。今後も中野サンプラザと区役所の建て替えなど予定満載。工事中の風景に慣れてしまい普段はあまり気に留めないが、少し前に驚いたのは角打ち「N」が無くなっていたこと。おいおい、と驚いていると少し離れたところに仮店舗発見。思わず中に入り、事情を聞かせていただいた。再開発に巻き込まれ、ということだったが角打ちは継続中。以前は店舗の前という解放感抜群のシチュエーションで呑めたが、現在は店内でゆったり。先日立ち寄った際も常連さんと話しながらまったり。帰り道、よくお世話になるサンプラザのトイレへ寄ろうとしたが、仮店舗は遠いし、通れる道も変更アリで分かりづらい。酔いが覚める程の危機一髪、味わいました。
バンド解散後、ソロとして復活するパターンは良くなるケースが多い印象。当然といえば当然、か。例えば小沢健二。フリッパーズギター解散後、彼が「オザケン」と呼ばれスターダムを駆け上がる姿は本当に痛快だった。バンド時代はアルバム毎に変わる音楽性とその完成度の高さが魅力だったが、彼のソロ作も同様。大人気・大名盤のセカンド『ライフ』(’94)から二年後に出た三枚目『球体の奏でる音楽』(’96)のリラックスした感触が興味深かった。ミニアルバム風のサイズ感、ベテラン・ジャズミュージシャンの起用など、今振り返ればスターダムからの着地の仕方としては秀逸。シングル曲「大人になれば」はワンカップ大関のCMソング。田村正和(!)との共演だった。
【大人になれば / 小沢健二】
三.ボブ・ディラン
復活、で思い出されるアルバムは『偉大なる復活』(’74)。ボブ・ディランとザ・バンドの二枚組ライヴ盤。別にどちらかが引退/解散をしていた訳ではなく、ディランにとって八年ぶりのライヴ。それにしては大袈裟なタイトルと思うなかれ。約一時間半のボリュームだがダレる瞬間はほとんどない。特にディランのホットなパフォーマンスは素晴らしく、一曲目の「我が道を行く」からガツンとくる。
再開発が続く中野にも朗報アリ。一昨年に休業していた老舗のトリスバー「B」が復活した。以前の店舗は外観・内観共に雰囲気抜群、もちろんトリスバーなのでリーズナブルな名店。時折訪れる程度だったが、休業後、そのまま残された店の姿にモヤモヤしていたので本当に朗報。メニューは居酒屋寄りになったが、ランチ営業があるので昼前から呑める。だったらと早い時間に訪れカウンターを独り占め。赤星大瓶をいただきながら、爽やかなバーテンさんと穏やかにお喋り。以前は帽子禁止で、知らずに行って注意されたことなど、今となっては良き思い出。その後カウンターに座った女性客、以前は開店前の時間から入れてもらって呑んでいた元大常連。「いやあ嬉しいわあ。今日帰ったら早速みんなに伝えないとねえ」と満面の笑顔。大半の客が開店を待ち望んでいる店なんて、そうそうあるものではない。「やっぱり緊張感も?」と尋ねると、バーテンさんは「がっかりされないように、とは思います」と。これは「偉大なる復活」間違いなし。背筋を伸ばしてもう一杯。来年が皆様にとって佳き一年となりますように――。
【 Most Likely You Go Your Way (And I’ll Go Mine)/ Bob Dylan, The Band 】
寅間心閑
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