一.岡崎友紀
シティ・ポップが世界中で、というトピックを見聞きし始めてから結構経つ。今更ながら、基本的には真実だと思う。最初は自分のメディア・チョイスが偏っているからではと疑っていた。ほら、グーグル先生も偏食に合わせて色々勧めてくるし。ただ「大ブーム」とか「席巻」とは少々違うような。勿論、喜ばしいことです。知らない音楽に触れる、そんなきっかけが増えることは素晴らしい。みんな聴こうぜ。一方「ギターソロ、たるくね?」とか、「イントロ、短めね」という若い御意見が多いのもきっと真実。その辺り、どう折衷つけて共存しているのかは興味深い。そもそも分母の世代がズレているような気もするが、もし共存上等なら「鍵」は経年、と推理。今は、当時みたいにシティ・ポップを手放しで楽しんでいる訳ではなく、適切に距離を取っている感じ。アクリル板、そしてマスク着用必須。言ってもアレは40年程前の音楽。内容や品質以前にまず経年。そう思えばレトロフューチャー的な、しかも隠し味としてディストピア風味がうっすら効いたアプローチも納得。無意識に斜、みたいな。
ただ「ニューミュージックの中でも、洋楽志向が強い70’s後半から80’sの国産流行音楽」というシティ・ポップの性質上、CD化されていない/されていても入手困難なアルバムは多い。なので取っかかりは、コンピレーション盤がベスト。オススメは20枚超のボリューミーな「Light Mellow」シリーズ。年代にこだわらない選曲なので、今話題の松原みきのデビュー盤「真夜中のドア」(‘79)と古内東子のB面曲が25年差で、またキリンジとやまがたすみこが30年差で、といった具合にセレクト。シティ・ポップ度数の高い楽曲を蒐集している。個人的にはアルバム単位でまったり/ゆっくり、参加した演奏家の人脈や背景を考えつつ楽しみたい。あの時代ならではの関係性などにニヤニヤしながら。ここ最近気に入っているのは岡崎友紀の『So Many Friends』(‘80)。ラブコメドラマ『おくさまは18歳』(‘70)の大ヒットで国民的アイドルとなった彼女の新機軸。当時27歳。センチメンタル・シティ・ロマンスらによる充実の演奏をバックに、彼女の歌声を堪能できる一枚。ジャケットも最高。
相変わらずマスクは慣れないけど、少しずつ外呑みのペースも戻りつつ。アクリル板、マスク着用必須は仕方ないし、内心免罪符の様な気もしている。元々立ち呑み/角打ち派なので、ドライに呑むことはウエルカム。最近一軒目にお邪魔することが多いのは、新橋の立ち食いそば「S」。夕方から呑ませてくれるし大瓶が安い。壁に向き合う席は椅子アリだが、真ん中のテーブルは立ち専用。アクリル板に仕切られたスペースは冷房直撃。揚げたてのとり天を肴にエンジンを温める。
【 S-O-O-N 岡崎友紀】
二.ヌスラト・ファテー・アリー・ハーン
冷えた身体と温まったエンジンで、御無沙汰していた店にも少しずつ立ち寄り、いい具合にフワフワしてきたら地下鉄銀座線で三越前まで。目当ては立ち飲み「T」。此方はズラリと並んだ小鉢から肴を選ぶ、昔ながらの落ち着く形。勝手に立つ位置を選んで、勝手にテレビを眺めて、勝手に杯を重ねて。仕事終わりに寄るならこんな店がベスト。ゆったりした空間は御時世的にも心地よく、他の客もタイプは様々だけど、みんな勝手にリラックス。こうでなくっちゃ。
映画は観ていないが、サントラ盤は聴く。そのパターンはとても多い。一口にサントラ盤といってもパターンは様々。一人の音楽担当が全ての楽曲を作り、曲間に劇中のシーンを挟み込んだりするタイプ。様々なミュージシャン、バンドが曲を提供しているタイプ等々。収穫が多いのは大抵後者。『デッドマン・ウォーキング』(‘95)のサントラは変わっていて、予めミュージシャンに映像を見せて参加を募る形。それぞれ勝手に表現し合っている。収録曲12曲中、劇中使用は4曲のみ(!)。ちなみに作品のテーマは「死刑」。メンバーはブルース・スプリングスティーン、パティ・スミス、トム・ウェイツ等々。個人的にはミッシェル・ショックトが嬉しく、曲も良かった。使われた4曲のうち2曲は、パール・ジャムのエディ・ヴェダーとイスラム教の儀礼音楽・カッワーリーの歌い手、ヌスラト・ファテー・アリー・ハーンの共演作。ヌスラトについて詳細は省くが、間違いなく圧巻。良いきっかけたらんことを。
【 Face of Love / Nusrat Fateh Ali Khan & Eddie Vedder 】
三.ベル&セバスチャン
辿り着いたのは銀座線の終点、浅草。おお、久々。ノープランながら、行きたい店は幾つか浮かぶ。浅草寺の前に立つと、時間は午後七時過ぎ。以前に比べれば、やはり人通りは少ない。向かうのは角打ち「Y」。小ぢんまりとした地元密着型の良いお店。閉店時間が変更している可能性もあるよな、と少し急ぎ足。無事入店し、赤星大瓶を。おお、三百円台。そして四十円のわさび豆。これ以上、何を望むものか。テレビの音や常連さんの会話に耳を傾けながら、変わらないことについて想いを馳せる。すると常連さんが缶チューハイを追加購入。見るでもなく眺めていると、ご主人が何やら取り出しピッ。おお、電子マネーいけるのか。
大きな変化に驚きつつ、お行儀よく退店。夜の浅草をしばし散策。脳内BGMはベル&セバスチャン。通称ベルセバ。守りたくなるほど頼りなく、自然体で控えめな音楽は、耳の奥に少しずつ蓄積されていて、こういう穏やかな心持ちの夜に勝手に再生し始める。どのアルバムも大きな変化はないが、それは勿論褒め言葉。お勧めするなら、二枚目『天使のため息』(‘97)や、「古傷」と名付けられたシングル曲集(‘05)だろうか。いや、やはり『私のなかの悪魔』(‘00)が、ベルセバ的華やかさを感じやすいかも――。こんな風に優柔不断になるのは気に入って欲しいから。保護欲、庇護欲をかき立てるのはこんな音。
【 The Model / Belle and Sebastian 】
寅間心閑
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