一.スピードメーター
とにかく暑い。今年の夏は大変だ。ウイルス、戦争でもお構いナシ。しかもニュースで伝える最高気温より、実際の数値の方が大抵高い。スマホには何度も「屋外活動は控えて」と警報が来る。誰が好き好んで体温並みの熱気をわざわざ浴びに行くものか。とは言いつつ、仕事なら仕方ないし、それでなくても喉は渇く。実は外でないと癒せぬ渇きがあるらしいですよ、旦那。
入店してすぐ食べれるといえば回転寿司。今はどの店もちゃんとしてる。昔は無愛想な店が多かった。勇気を出して注文したら、既に回ってたドライなヤツを無言で置かれたり。皿五枚以上、なんてノルマがあったり。イメージとしては怖い店の類。それに比べると今は天国。優しくて親切丁寧。大手チェーン店なんてオアシスだ。外国人観光客から中高生、親子連れまでみんな楽しそう。一人でも四人用テーブルを指定できるので、昼飯時のリーマンもゆったり羽を伸ばしている。ただ難点がひとつ。酒がちょっと高い。まあ、あまり安くするとああいう雰囲気になりそうですからね。
なので「中生一杯目は\160」なんてポスターを見ると、ついフラフラと。そのうち狙って行くようになったのが明大前の回転寿司「D」。角打ちや立呑みと同じく大抵ルーティン。ワカメが添えられた塩辛でちびちびと。夏でも冬でも二杯目は熱燗。此方はとても熱くしてくれる。有難い。熱々をお猪口に注いだら、この辺りで巻物を。色々変化球を試した結果、ここ最近はカンピョウ巻き。目の前で巻いてもらうと何となく贅沢。他では食べない物だしね。所要時間二十分弱でお代は千円弱。お茶を飲み干したら、いざ猛暑の学生街へ。
眠れなくなるほど熱烈に好きだった時期はないけれど、所謂「アシッド・ジャズ」や「ブリット・ファンク」なんて呼ばれそうな音楽――タイトなビートでインスト中心、個人的にはハモンド推し――は、考え事をする時のマスト・アイテム。どのバンドが、という感じではなく、ああいう音が好き。最近のお気に入りはスピードメーター 。ロンドン発のジャズ・ファンク・バンド。誤解を恐れず言えば、どの曲もラモーンズ的に似ている。強烈なリフくらいは覚えているけど、という感じ。個ではなく、束で好き。勿論褒め言葉。あと、この手のグループの強みはバックバンドになれること。ジェイムズ・ブラウン・ファミリーの歌姫として、三十年以上(!!)ショーに出演し続けたマーサ・ハイとの共作盤『ソウル・オーヴァードゥー』(‘12)は、曲目も往年のソウルが多く最高の出来。ただ難点がひとつ。腰が動いちゃって、考え事には向かないこと。
【 No More Heartaches / Martha High & Speedometer 】
二.サンタナ
暑いのに熱いものが食べたくなる。但し涼しい場所で。よく学生の頃、冷房効かせた部屋で布団被って足だけ出して、親に勿体ないと叱られたけど全く同じ。進歩ナシ。先日ふと食べたくなったのが串カツ。色々許されるなら大阪に行きたいけど、そこは我慢。都内で好みの串カツ屋、実は意外と少ない。だったらと新規開拓。前から気になっていた綾瀬の「K」へ。少々遠いけどとても好きな街。まだ暑さの残る夜、どの店にしようかとフラフラ歩く人々に紛れていると、いい具合にネジが緩んでくる。入店して驚いたのは大瓶の安さ。税抜きとはいえ四百円弱は素晴らしい。串も安いのかと驚いていると更なる衝撃。店名を冠したサワーが百円。一気に涼しくなる。ホスピタリティー抜群の良いお店。その証拠に勘定を済まして外に出ると長蛇の列。汗かいて並んででも行きたい気持ち、分かります。
サルサを好きになる以前からその兆候はあった。イカ天バンドの中ではクスクスが好きだったし、ザ・ブームの大名盤『極東サンバ』(‘94)のバンドスコアはボロボロだ。洋楽でああいう感じに最初に触れたのは多分サンタナ。言わずと知れたラテン・ロックの代名詞。どうしてもリーダー、カルロス・サンタナのギタリストとしての功績が前に来るけど、それはそれとして。デビュー盤(‘69)から三枚目(‘71)までは今聴いても、いや十年後に聴いても音色が野蛮で堪らない。ただ今年のような猛暑にはトゥーマッチ。ようやく暑さが引き始めた夜には、名盤と名高い四枚目『キャラバンサライ』(‘72)を聴きながらフラフラ呑み屋を探したい。コンセプト・アルバムという枠組みが、音色を窮屈にすることなく、聴こえ方の可能性を押し広げた好例。ホットとクールのバランスが最適/快適。
【 La Fuente del Ritmo / Santana 】
三.布谷文夫
また暑いのに熱いものが食べたくなる。無論涼しい場所で。さっきは揚げたので、今度は焼き。きっかけは白黒のビラ。ハッピーアワーはチューハイ百円。嗚呼、デジャヴ。高円寺の大衆焼肉「K」は、建物の隙間の細道の奥という雰囲気抜群の好立地。卓上コンロでジンギスカンを焼きながら、チューハイで涼を取っていると、旅先で知らない街の知らない店にいるような気分。外の暑さを忘れて、期限付きのオアシスで憩う。いつまで、なんて野暮なことをお聞きでないよ。お客さん、ハッピーアワーは七時までです。
布谷文夫の名を知ったのは、ご多分に洩れず大瀧詠一関連だったはず。大瀧プロデュースのシングル「ナイアガラ音頭」(‘76)は、タイトルの通り明るいトラックに、彼のブルージーな歌声が「意外にも」ハマるダンスナンバーだが、ソロ・アルバム『悲しき夏バテ』(‘73)ではニューオリンズ発祥のリズム、セカンドラインと彼の声が共鳴しまくっている。リトル・フィートより効果覿面。数年前に発売されたデラックス・エディション仕様のボーナス・トラックには、友部正人の名曲「大阪へやってきた」のライヴ録音が収録。これが素晴らしかった。一瞬で知らない街へ連れて行ってくれる力強さ。その街の季節はもちろん夏。ひどく暑くなる日の明け方だ。
【深南部牛追唄~大阪へやってきた / 布谷文雄】
寅間心閑
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