世界は変わりつつある。最初の変化はどこに現れるのか。社会か、経済か。しかし詩の想念こそがそれをいち早く捉え得る。直観によって。今、出現しているものはわずかだが、見紛うことはない。Currency。時の流れがかたちづくる、自然そのものに似た想念の流れ。抽象であり具象であるもの。詩でしか捉え得ない流れをもって、世界の見方を創出する。小原眞紀子の新・連作詩篇。
by 小原眞紀子
箱
心は箱である
とりわけ君の心の
変わり目の糸がほつれ
少し気になる
短い赤い糸が
箱は青いのに
(なぜなのか
重ねれば奥深く
(なぜなのか
ずれながら
(なぜなのか
渦を巻く
箱の中の箱の
(中の箱の
闇へ
一歩踏み出すと
突然、ひらける
海辺
吊り橋を渡れば
大陸最南端
と書かれている
君は立ち尽くし
背負った箱を開ける
この場所にいる
このときを
この箱に入れる
打ち寄せる波に
箱はゆれて
打ち寄せる波に
心はゆれて
上限は箱の上蓋
下限は箱の下底
チェック柄の
ちょっと糸がほつれて
君は立ち上がる
空を見て あるいは
足指を砂に噛ませて
新しい箱を拾う
新しい風が吹き
新しい階段から
辺りを見ている
今はここ
遥かな眺めに
胸をふくらませても
今はここ
満ちて引く潮に
足をすくわれても
今はここ
何かが起きるまで
何も起きることはなく
何かが起きるときは
起こるべくして起こる
夏になれば
容赦ない日差しに
大きな箱の蓋が開き
覗き込んだ君は
ためらって
もう一度ためらって
三度目に
中の箱の蓋をとる
冬になれば
贈り物の重みで
大きな箱の底が抜け
抱えていた君は
唖然として
さらに呆然として
落ちた林檎を集める
それらはたしかに
画期的なことで
なにしろすべては
ラベルを貼られて
箱詰めされるので
文字通り
画期的なことではあるが
必ずしも稀有な
歴史的事象ではなく
すなわち
画期的な箱詰めは
定期的に起こる
箱はずれながら
闇を深めて
軸を挟んで
回転する
君の心変わりを
咎めはしない
わかっていたこと
そうあるべきこと
画期的な箱開けも
定期的に起こる
世界は厳重に
梱包されており
外箱から
内箱へ
サイズを変えた
君の心が
横たわっている
ぷちぷちしたビニールと
発泡スチロールに
どこまでもくるまれて
* 連作詩篇『Currency』は毎月09日に更新されます。
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