世界は変わりつつある。最初の変化はどこに現れるのか。社会か、経済か。しかし詩の想念こそがそれをいち早く捉え得る。直観によって。今、出現しているものはわずかだが、見紛うことはない。Currency。時の流れがかたちづくる、自然そのものに似た想念の流れ。抽象であり具象であるもの。詩でしか捉え得ない流れをもって、世界の見方を創出する。小原眞紀子の新・連作詩篇。
by 小原眞紀子
外
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出掛けてはならない
この五月に
輝く陽は
窓の向こうのもの
出掛けてはならない
夏は遠ざかり
空っぽの時間と
白い空間に
気温だけが上がり
それでも
出掛けてはならない
指を伸ばし
湿りけが細く
細く絡みつく
雷が天空を裂く
翌朝
固定電話が鳴る
セールス以外にない
資金を引き上げて久しい
大和証券厚木支店の
初めて聞く新人の声
大和証券厚木支店は
法人口座をあきらめない
IPOをあげたのに、と
たぶん上司が言っている
窓からの輝く陽に
わたしは目を細める
Sell in May.
ドルを移そうかな
Sell in May.
誕生日も近いし
Sell in May.
手数料は補填しますと
お兄ちゃんは言う
新人にはいつも
少し優しくする
彼らはわかりやすい
彼らは何もしらない
だから間違わない
今からはやっぱり
アメリカです
(そりゃそうだろう
GAFAってご存知ですか
(しらんやつおるのか
最近それにMが加わり
(Makiko かな
マイクロソフトですが
その五つ分の時価総額は
東証一部を超えています
(…
窓からの輝く陽
あの真夏の日
あそこから一歩も出てない
雲ひとつなかった
真昼の球体から
島津製作所も
日本郵船も
ファーストリテイリングも
ソフトバンクですら
束になって
竹槍を持って
出掛けてはならない
誰が出るものか
外はいつだって
内にしかない
今に始まったことでない
夏目漱石も
シェイクスピアだって
うちのパパだって言ってた
飲みにばかり行ってたが
ニホンノミナサン、
コンニチワ
Gが買収した
YouTubeの内側で
日系のダンさんが喋っている
キッチンの角で
二枚のA製タブレットの
一つにレシピが映っている
春キャベツと新玉ねぎを
山ほど蒸して
タイマーが鳴るまでの間にも
日銀はETFを買っている
買って買って
買いまくっている
正気じゃないよ、と
ダンさんは言う
欧米語の強すぎるストレスが
感染爆発の遠因ではないかと
ひそかに考える
出掛けてはならない
外は裏返して
内となるものだから
蒸した野菜を皿に盛り
マスクをつけて外に出る
ホースラディッシュを買いに
五月の澄んだ宵闇に
* 連作詩篇『Currency』は毎月09日に更新されます。
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