一.スティーリー・ダン
コロナ、予想外に手強い。人と会うこと、金を稼ぐこと、逃げること。この三つに制限をかけるヤツがいたなんて。そりゃあ皆さんイライラしてギスギスしてヘロヘロになるはず。私も可能な限り自粛中。ぐちは云うまい/こぼすまい、と堪えているけど大変だ。ちょっと気を抜くとゴボゴボと溢れ出してしまいそう。ここはソフトに「畜生、コロナめ」。
最後に呑みに行ったのは新宿のベルギービール専門店「F」。そもそもベルギービールの魅力を知ったのは、普通のビールが苦手だった頃。当時よく行っていたのは新宿ルミネ地下にあった酒屋「大阪屋」。残念ながら閉店してしまったが、此方は種類豊富で角打ちができてスタンプカードまであった。その後専門店にはちょくちょく顔を出していたけど、まあ諸々重なって足が遠のいていた。ほらベルギービールって、特に生だと結構お高いでしょう? なので「F」も久々。きっかけは店からのメルマガ。もう何年もちゃんと読まなかったメルマガに目を通したのも何かの縁。目に留まったのは「無くなるまで樽生ビール飲み尽くしてください」の文字。緊急事態宣言を受け、明日から臨時休業。それに伴いロスを最小限にする為、本日六十分飲み放題千円とのこと。予想外だったのでもう一度確認。間違いない。適当な場所にいたので、歩いてオープン時間きっちりに来店。四十五分でラストオーダー、全く問題ありません。ヴェデットの白生に始まり、お初のヘルケンロード・シスター、日本人に馴染み深いピルスナー・スタイルの元祖ウルケルを挟んで、とても久々シメイのゴールド、最後はチェリーをベースにしたフルーツ・ビールのリーフマンスで〆。お店の方の丁寧な説明、対応もありずっと心地よく。帰り際に伝えた「夢のような時間でした」という言葉に偽りナシ。そんなこと口走ったのは初めてかも。事態が落ち着いたら必ず行かねば。次はしっとりスローペースで。
そもそもスティーリー・ダンの魅力を知ったのはデビュー盤『キャント・バイ・ア・スリル』(’72)収録の「リーリン・イン・ジ・イヤーズ」だった。その次は「ペグ」(’77)。でもそこからが予想外に難しい。引っ掛かる。スルッと入っていけなかった。凄さは頭で理解しているのに、耳がついていかないモヤモヤ期がつい最近まで。ようやく抜けたきっかけは「ペグ」が収録されている六枚目『彩(エイジャ)』(’77)。モデル・山口小夜子のジャケットも美しい大名盤。この八分弱の表題曲にスルッと入れた。仕組みが分からないから何度も聴けて、その度にうっとりできる正に夢のような時間。無論アルバムとしての流れも素晴らしい。
【Aja / Steely Dan】
二.スピッツ
ここ数年、夢見心地で聴く音楽がある。しかも毎朝決まった時間に。ええ、お察しの通り朝ドラ。好きな曲もあれば興味のない曲もあり、イントロのギターの音うるさいなあという曲もあれば歌い方がちょっとという曲もある。毎日聴く音楽なんて滅多にないので、この主題歌問題は興味深い。これぞ「普段使い」。驚いたのはスピッツの「優しいあの子」(’19)。なにしろ変わらない。予想外の不変。十一枚目『スーベニア』(’05)までは聴いていたし、六枚目『ハチミツ』(’95)は今もよく聴く。個人的に一番凄味を感じるのはヴォーカル・草野マサムネによる旋律。毎朝聴いていた時もあのシンプルさと彼等らしさに唸っていた。それはアルバム『見っけ』(’19)でも同じ。変わらない、で済ますのはきっと雑。カート・コバーンや小室哲哉のようにクセが強い「変われない」側なのではと思っている。
かつて住んでいた井の頭線の某駅。その駅前から続く商店街に居酒屋「M」はある。実際住んでいた時より、引っ越した後の方が立ち寄る機会は増えた。パッと見は変哲もない「普段使い」の店。その正体は、行く度に「前から通っとけばな」と悔やむ予想外に素敵な「普段使い」の店。メインはおでん、お通しはこだわりの刺身。貼り紙には「当店をネット/ブログに載せないで下さい」。なので今回は駅名非表示。おでんの種は定番以外にもバイ貝、きくいも、車麩など興味をそそられる物が多数。熱燗チビチビ呑みながら、ねえ、いいでしょう、先日昼間に店の前を通ったら、掃除中の御主人と常連らしき奥様方が立ち話中。「やっぱり八時に閉めちゃうの?」「ええ、まあ、すいませんねえ」。誰に謝らせてるんだ。「畜生、コロナめ」。
【優しいあの子 / スピッツ】
三.ギターパンダ
自由に行けなくなるとよく分かる。その店に行きたい理由なんて本当に様々。味/雰囲気/価格が好きとか、懐かしいからとか、あいつと呑むからとか。先日約四半世紀ぶりに訪れたのは、創業約半世紀の老舗居酒屋「A」。理由は、忘れているから。学生時代、店の裏にバイト先があり、何度か連れて来てもらったが記憶がほぼ無い。ドキドキしながら座るとお通しの次に「サービスです」とべったら漬け。これが旨い。中生呑みながら小一時間寛ぎ、お会計を頼むと出てきたのは領収書とにゅうめん。サービスはそれに留まらずお土産まで。中は柿の種、うまい棒、歌舞伎揚げ、ミニドーナツ、そして素麺一把。予想外の進化を満喫。
バンドブーム全盛の頃、パーカッションを擁するディープ&バイツの音楽は異質だった。少なくとも義務教育中の耳には。ファンキーとはしゃぐには渋めの横ノリに等身大すぎる歌詞。そしてすっとぼけたキャラクターのフロントマン・山川のりをが弾く抜群に格好いいギター。そのキャリアも甲本ヒロトが在籍したザ・コーツに忌野清志郎&2・3’sと抜群。そして今、彼はパンダの着ぐるみで演奏する。その名もギターパンダ。好きなギタリストがパンダになるという予想外の進化にまずは笑った。そして演奏を聴いてグッときた。弾き語りだとその凄味が剥き出しで伝わってくる。パンダを着たギタリストの中で、間違いなく一番格好いい。
【うたをうたおう / ギターパンダ】
寅間心閑
■ スティーリー・ダンのCD ■
■ スピッツのCD ■
■ ギターパンダのCD ■
■ 金魚屋の本 ■