一.ザ・ディスティラーズ
新年の呑み始めは例年通り。気の置けない面子と、系列にスーパーマーケットもある老舗居酒屋「S」で……、と思いきやまさかのお休み。「去年は元旦からやっていただろう!」「我々を見捨てるのか!」「休みます、なんて連絡来なかったぞ!」と騒ぐことは勿論なく、これも「働き方改革」かしらん、と大人しくプラン変更。大型家電量販店「B」の酒屋コーナーで角打ちしながら協議の結果、格安チェーン店居酒屋「S」への進路変更を決定。何とか事なきを得る。その後六時間超の宴を経て、ようやく新年の心持ち。皆様、あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願い致します。
長丁場の宴のお供と云えば焼酎のボトル。飲み切りでもキープでもOK。好みの濃さと割り方でダラダラやりましょう。個人的定番はソーダと氷で酎ハイ。冬場ならお湯割に梅干を落としたい。見た目は汚いが味は最高、的な台詞があったのは村上龍氏の小説だったような。でもそれは家呑みの時だけ。外ではなかなか難しい。
というのも、最近の梅は何かと甘い。無論ニーズがあっての事だろうけど、梅と塩「のみ」で作られた一粒、出来れば肉厚で大きめなモノを少しずつほぐしながら呑みたい。そう思って探してみたのが数年前。予想以上に難しかった。梅プラス塩オンリーはクリアしても、小ぶりだったり肉薄だったり高額だったり。という訳で当時何とか見つけた梅農家さんに今も注文。
ガツンと来るがストレートな塩気だけに非ず。徐々に崩れていく果肉の味わいもあるので飽きが来ない。嗚呼、書いているだけで唾がジワリと。
ガールズ・パンク・バンドには幾つかタイプがある。虚ろな目つきでダルに演ったり、とにかく甲高く喚いたり、技術の未熟さを味方にしたり。中には野郎さながらにドスを利かすタイプもあるが、これはなかなか難しい。儚く見えたり、キュートに聴こえたりして結果魅力的に響いても、なかなか狙い通りにはいかない。ただ、ザ・ディスティラーズのヴォーカリスト、ランシドのティムの元嫁でもあるブロディのドスは、ストレートに下っ腹にグリっと捩じ込まれる。かと言って男性的に非ず。野郎だと滲ませづらい脆さが其処彼処に。少し前のソロや再結成のシングルも悪くないけど、やはりデビュー盤の『ザ・ディスティラーズ』(’00)に何度も手が伸びる。
【Idoless / The Distillers】
二.ブギ連
声と楽器を同等に見なすのは、流石にちょいと乱暴。歌詞があるから尚のこと。ただ純粋に好きな声というのはある。ええ声やわあ、と蕩けるヤツ。初めてそう感じたのは甲本ヒロト。当時ザ・ブルーハーツ。勿論歌詞は刺さった。でもそれだけではずっと聴いていられない。色々考えた末の結論はシンプル。きっと彼の声には底知れぬ何かが宿っている――。その何かをたっぷり浴びられるのが、昨年始動したユニット、ブギ連。相方は憂歌団のギタリスト・内田勘太郎のみ。やるのは勿論ブルース。
彼のブルース・スタイルの歌声を初めて聴いたのは、ボ・ガンボスのトリビュート盤『コラボ・ガンボス Vol.1』(’05)。ほぼルースターズな面子のロックンロール・ジプシーズと共に、10穴ハーモニカを吹きまくっていた。その音色の鋭さたるや。ブルースが渋い、って、アレ本当かしらん。今回のアルバム、『ブギ連』(’19)でもハーモニカは大活躍。本当に贅沢。ブルース愛溢れる歌詞も素晴らしい。拍子に囚われない二人の音が絡み合う様子は、或る意味プログレ的。
自慢にもならないが、あまり肴にはこだわらない。何なら無くてもいい。そんな無粋者が、あの店のアレを食べたいと生意気を言い出すのが焼きとん。珍しく肴先行で店が決まる。中でも長らく気に入っているのが沼袋「T」のアミハツ。その名の通り網状の「網脂」でハツをコーティングした逸品。同様のアミレバも美味。大人だからしないけど、これだけずっと食べていても飽きない、筈。嗚呼、涎がジュルリと。
【ブギ連】
三.平山みき
作曲家・筒美京平の凄味は「質の保証」に尽きる。それがシングルのカップリング曲でも、アルバムの中の一曲でもしっかり流れる筒美節。個人の好みはあれど、そこまで非道いモノはない、筈。流石、稀代のヒットメーカー。
彼の「秘蔵っ子」と呼ばれた平山みきの声は、ただの蓮っ葉なハスキーではない。更にエフェクトがかかっていて、それがクセになる。変な話、何を歌わせてもあの声ならそれなりに聴けてしまう。
突き放すような歌唱法なので、「マジック・ロード(さすらいの天使)」(’72)等のしっとりした旋律を乗せた方が個人的には好み。不動のベスト・チューンはアーバンなアレンジを纏った筒美作品「冗談じゃない朝」(‘87)。キャラクター、歌詞、音色。全てのベクトルが一致している。
笹塚界隈に数店構える老舗イタリアン「C」は、とにかくドレッシングが有名。そのドロドロで濃厚な味は本当に旨い。変な話、何にかけてもあの味ならそれなりに食べれてしまう。某俳優曰く「エビフライはタルタルソースを食べるための棒」。なるほど此方のドレッシングもそんな風に讃えてみたくなる。曰く、サラダはこのドレッシングを食べるための草片。
念のため言い添えておくならば、ジャンルも店名も同じ飯倉片町のあそことは無関係。ちなみにいつも訪れると、なぜだか半額デー。なんとワインも半値。「あ、そうなんだ、へえ、ラッキーだなあ」と素直に喜ぶ。そういう日を狙って行ってるんじゃないの、なんて野暮は言いっこなし。新年くらいは素直になりましょう。
【冗談じゃない朝 / 平山みき】
寅間心閑
■ ザ・ディスティラーズのCD ■
■ ブギ連のCD ■
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