一.エリカ・バドゥ
光陰如箭。新しいものは古くなる。これ常識。それなのに「ニュー○○」「ネオ○○」と名付けたがるのはヒトが忘れっぽいからか。無論「新しさ」自体に細かい条件はない。だから音楽のジャンルに使うと大変だ。基準が曖昧だからアレもコレも入っちゃう。
「ネオ・ソウル」もそう。ネオじゃない「ソウル」の立場とか、70年代には「ニュー・ソウル」というムーブメントがあったとか、色々緩んでる。個人的には「90年代以降のR&B」程度のざっくりした認識。
ディアンジェロもマックスウェルも聴くけど、好きなのはエリカ・バドゥ。スタジオ録音三枚目『ワールドワイド・アンダーグランド』(’03)までは引き算の魅力。詰め込まずに発生する余白。その隙間が妙に格好いい。そして一番の衝撃は四作目『ニュー・アメリカ・パート1(第4次世界大戦)』(’08)。これ、前作までとは真逆のアプローチ。ブラック・ミュージックのルーツやクールがぎっちり詰め込まれている。ブラック・ムービーさながらに曲を繋ぐ仕掛けも素晴らしい。特にロイ・エアーズがプロデュースした一曲目「アメリカン・プロミス」。ソウルやファンクの名盤が続々誕生していた70年代、あの頃の雰囲気が最高の形で再現されている。
串カツと云えば大阪のソウルフード。現地を訪れた際、必ず立ち寄るのが新梅田食道街の「M」。創業半世紀の老舗。二十数年前、今は無き下北沢の串カツ屋店主から「参考にしている店」として教えて頂いた。味は勿論のこと緩い雰囲気が最高。未だ色褪せぬ串カツ屋の原風景。
都内で「大阪感」の強い串カツ屋といえば、北千住の駅近くにある立飲み「T」。此方も創業四十余年。揚げ場を囲んだカウンター、ステンレスのバット、皿、ソース入れ。これだけで既に美味しそう。威勢の良い店員さん達は、背中に店名が入った揃いのTシャツ。大阪、再現されてます。揚げたての紅生姜をソースに浸して、いざ極楽。
【Amerykahn Promise / Erykah Badu】
二.パブリック・イメージ・リミテッド
件の「ネオ・ソウル」より広義かつ曖昧な名称が「ニュー・ウェイヴ」。即ち新しい波、ヌーヴェルヴァーグ。これにも様々なタイプのバンド、ミュージシャンが含まれる。
個人的には「パンク以降の渾然一体」と認識。なのでパッと浮かぶのはパブリック・イメージ・リミテッド。通称PIL。御存知ピストルズ解散後にジョン・ライドンが結成したグループ。曰く「ロックは死んだ」。なるへそ。
ロックンロールの解体/拡張を派手に押し出した二枚目『メタル・ボックス』(’79)、三枚目『フラワーズ・オブ・ロマンス』(’81)の高評価には異論ナシ。確かにアレは凄い。パンキッシュだなあと素直に感心。ただ、その偉業の陰に隠れがちな一枚目『パブリック・イメージ』(’78)も悪くない。ピストルズの面影も確認できる過渡期故の生々しさはなかなかスリリング。
立飲み屋にも新しい波はある。昨年暮れに開店した下北沢「A」はアボカドがメイン。アボ白子ユッケ、エビとアボカドのアヒージョ、ツナとアボカドのトロトロバターオムレツ。おお、ヌーヴェルヴァーグな肴。そしてどれも美味しそう、いや、美味しゅうございました。店の半分は同じくアボカドメインのカフェ、パッと見、女子ばかり。渾然一体のワチャワチャ感は立ち飲みの基本。ニュー・ウェイヴとはいえ中身は王道。え? ハッピーアワーはハイボールが39円? 流石、天晴れ。立飲みはいつの世だって庶民の側に。
【Public Image / Public Image Ltd】
三.尾崎亜美
所謂「ニュー」物、国内で認知度が高いジャンル名といえばやはり「ニューミュージック」。新しい音楽。これも定義が困難な案件。「陽水、ユーミン、オフコースは分かるけど、拓郎やかぐや姫はフォーク色が強くない?」とか「ツイストやサザンまでカウントするなら、海援隊、さとう宗幸はどうするのか」等々、紛糾必至。世代によっても相当意見が分かれそう。
個人的には「フォーク以降、自作曲多め」と認識。少々自信ナシ。思いつくのは尾崎亜美。これは少々自信アリ。デビュー盤『SHADY』(’76)から四枚目『PRISMY』(’78)までは今もよく聴く。松田聖子「天使のウィンク」(’85)、杏里「オリビアを聴きながら」(’78)、南沙織「春の予感‐I’ve been mellow‐」(’78)等々、提供楽曲からも分かる秀逸なソングライティング。鈴木茂、林立夫、松任谷正隆らティン・パン・アレー組を中心に、豪華な布陣を従えた彼女の声はとても魅力的。ハスキー、と一言では言い表せない翳りのある声。確かに70年代後半、この音は「ニュー」だったのかと納得。
居酒屋にも「ニュー」を名乗る店は多い。パッと思い付いた中から厳選したのは結局昨晩訪れた店。茅場町の立飲み「N」。100円の酒の自販機、セルフの焼鳥、とメディアにもよく取り上げられる有名店。遊園地、と称されるのも納得の和気あいあい。そうそう、立飲み屋でハイテーブルの相席は少し珍しいかも。
100円で焼酎を自販機から注ぎ、100円の炭酸瓶を買って、フリーの氷を頂いて酎ハイ完成。基本的に男性専用(カップルOK)。女性のみでは入店できないが、縄暖簾をくぐった店内はとても開放的。自販機の使い方を教えたり、焼鳥の焼き方を教わったり、いつも皆さん楽しそう。仏頂面で呑んでいるのは少数派。女の子を誘う口実に、なんて軽口は多分此方の大定番。
【冥想/尾崎亜美】
寅間心閑
■ 金魚屋の本 ■