大野露井さんの連載小説『新故郷』(第02回)をアップしましたぁ。最初に文学金魚新人賞を受賞した小説『故郷-エル・ポアル-』があり、次に『故郷-エル・ポアル-』の注釈、そして今回の小説『新故郷』です。〝エル・ポアル〟は作家自身による注釈を間に挟んだ2つの作品から構成されます。最初の『故郷-エル・ポアル-』と『新故郷』が同じ内容の作品になるのか、異なる展開になっているのかは、実際にお読みいただければと思います。
読者の皆さんがけっこう気にされていることだと思いますので書いておくと、大野さんは日本人ですがスペインとのハーフ(ダブル)です。これが作家として有利に働くのか? もちろん一定のアドバンテージがあります。石川は純文学の世界の厳しさを骨身に沁みて知っています。ダブルだけぢゃなく、美男子美人学歴の高さ、その逆に学歴低くて実はグレてましたという過去など、その気になればすべて作家がデビューする際のアドバンテージになります。つーか作家は使えるものは全部使わないとちゃんとデビューすらできない。もち書くという意味を含めてです。
作品だけで勝負というのは理想ですが石川は甘いと思います。人の耳目を惹くような何かを持っているなら絶対に使った方がいい。あからさまに書いてしまった方がいい。また作家としてずっと活動していけば、自分の持ちネタは結局書いてしまうことになるのです。だけど公表するタイミングというものがある。比較的若い間にデビューしたいなら自分の年齢と持ちネタに敏感でなくてはいけません。頭の中だけでこしらえたネタはやっぱり弱いのです。
ただ付加価値的アドバンテージに、読者といふか世間は一瞬で飽きる。今はまだ珍しいですがこれだけ国際結婚が進んでいるわけですから、10年も経たないうちに、ある種のル・クレジオ的なクレオール小説に似た小説ブームが日本の文壇で起こるのはほぼ確実です。日本語を読み書きする生粋の外国人も増えていますし、その知識も戦後の一時期とは比べものにならないほど微細で高度化しています。外国人でも日本語で書く作家は増えるでしょうね。
要するに付加価値的アドバンテージの賞味期限は短い。読者が作家が持っている個人的背景に慣れてしまえば、後は日本ドメスティックな作家と同様に作品本位で評価されます。ただ最初期にアドバンテージを使った作家は読者の記憶に残る。良い悪いの問題ではなく、それが世の中というものです。デビューの時の記憶が最後まで作家にはつきまとうのです。作家が作品の質を上げることを最重要とするのは当たり前ですが、自分の持っているもので何が使えるのか客観的に捉えることも大事です。
で、『新故郷』は改行の少ない純文学的な書き方を採用しています。ただ私小説的な純文学よりも遙かに読みやすい。こういった〝書き方〟の選択を作家は恐らく一種の勘でやっています。論理では明確に説明できない選択なのです。この書き方が成功しているのかどうかは、作品を読み終わって初めて判断されることになります。評価ステップが一段上がるのです。だんだん評価が厳しくなってゆく。ただ一つのヴィジョンに沿った書き方でしょうね。
■ 第06回 金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)応募要項 ■
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