第2回 辻原登奨励小説賞受賞作家・寅間心閑(とらま しんかん)さんの連載小説『証拠物件』(第09回)をアップしましたぁ。四章下編です。推理物でもサスペンスでもないんですが、寅間さんの小説は続きを読みたくなりますね。
「コウタ君。セックスした相手が死んだことある?」
「いや……、ないですね」
「私もないのよ」(中略)
「だからさ、清美ちゃんのお父さんが自殺未遂したって時はすごく考えちゃったんだよね。セックスした相手が死ぬってかなり変な感じだよ」
「……はい」
「何ていうの、自分の一部分? 身体じゃなくて、うーん、記憶っていうか……。それがなくなっちゃったって感じかな。まぁ私の場合は死んでなかったから、違うかもしれないけど」
そう言って小さく笑い、「もう一眠りしてもいい?」と煙草を灰皿で揉み消した。煙が鼻を刺激する。さあ、話が終わった。すぐにでもしたかったが、俺も一本だけ吸った。吸い終わってからするつもりだったが、我慢できず途中でもみ消して、隣で寝ているサキエさんの身体を抱き寄せる。
見慣れた自分のジャージを脱がすのは変な気分だった。焦るように挿入しながら、明日この人が死んだら、と想像した。急激に萎えそうになったので、とりあえず想像するのは後回しにする。
(寅間心閑『証拠物件』)
寅間さんの小説にはなんか強いリアリティがあります。そーとーオイタして生きてこられたのかなぁ(爆)。小説は微に入り細に入りの描写が増えて、テクニック的には高度なものになりつつありますが、それに反比例してリアリティが失われてゆく傾向があります。寅間小説のリアリティ、なにかを掴んでいるから生まれてくるんだろうなぁ。それが観念とかの抽象でないことだけは確かだと思います。
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■ 予測できない天災に備えておきませうね ■