ラモーナ・ツァラヌの『思い出の谷』の英語版 The Valley of Our Memories – Part 2, by Ramona Taranu をアップしましたぁ。前回に続き、日本語で書いた作品を英語に移す際のニュアンスの差を、日本語版と読み比べてお楽しみください。
第二回は物語のクライマックスです。村を去ることになった主人公アンドレイが、ニコラエおじさんに背負われ、目隠しをされたまま山を降りる場面はとりわけ印象深い。目が見えないまま体だけで感じる下山の感覚――崖の冷たい風、洞窟の反響、滝の轟音――は、視覚をあえて封じることで内的なものへと感覚が研ぎ澄まされる。これはラモーナさんの作品に通底する感覚の問題でもあります。クライマックスが「音」で訪れるのはpart 1 の編集後記でも触れましたが、目隠しの場面ではそれがさらに大きく膨らんでいます。
物語の結末も秀逸です。大人になったアンドレイが図書館員のマリアに語り終えた後、修道院でクリスティとマリオアーラらしき人物に出会う場面は、能でいえばシテが再び姿を現す後場のような感覚があります。ラモーナさんは能の研究者でもあり、「青い目で観る日本伝統芸能」という連載も執筆されていますが、前場では過去の体験が語られ、後場ではそれが現実と交差する――能の夢幻能的な二重構造が、ルーマニアの山村を舞台にしながら静かに息づいています。
ルーマニアの正教の世界が、日本の能の精神とどこか深く響きあうのは不思議なことではないかもしれません。祖先への祈り、死者と生者の共存、時間の輪。どちらの伝統にも流れる感覚です。ラモーナさんの文学はその交差点に立っています。日本語と英語の両方でお楽しみください。
■ラモーナ・ツァラヌの『思い出の谷』英語版 The Valley of Our Memories – Part 2, by Ramona Taranu PDF版■
■ラモーナ・ツァラヌの『思い出の谷』英語版 The Valley of Our Memories – Part 2, by Ramona Taranu テキスト版■
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