吉原裏同心
NHK総合
木曜 20:00~(連続12回)
数字的に好調のようだ。原作もあるし、つまりは脚本がわりとしっかりしているわけで、安心感もあるということだろうか。そして吉原とか大奥とかは、確かに民放ドラマや映画でも記憶に残るものが多く、惹かれるものがある。
それは大河ドラマで繰り返し描かれる、信長–秀吉といった正史のラインではないものの中で最もメジャーなもの、すなわち「女たちの百花繚乱」を扱ったものだからではないか。「女たちの百花繚乱」がなぜメジャーなのかと言えば、もちろん、そもそも源氏物語という日本文化のベーシックなものが横たわっているからだ。
しかしその源氏物語は映像化において、あまり成功している記憶がない。日本文化の基盤だけれど、時代が古くて映像化がしっくりこないのではないか。そしてそれに代わるのが、吉原とか大奥とかいう設定なのだろう。
あらすじとしては、人妻の汀女と幼なじみの神守幹次郎が駆け落ちし、追っ手を避けて江戸に流れ着き、吉原遊郭四郎兵衛会所の用心棒、裏同心として雇われる。この夫婦が形式上の主人公だが、内容的には各回に登場する遊女たちが主役である。夫婦はそれに共感し、仇をうってやる役回りだ。いわば各回の遊女を視聴者に紹介する立場で、源氏物語の光源氏、バラエティー番組でいえばMC。登場人物である以上は彼らのキャラクターも問題にはなるし、それら遊女たちとの関わりを介した彼ら夫婦の物語でも、もちろんあるが。
順調に数字が上がってきたのも、遊女を演じる女優さんたちの「自らが主役」意識が期待できる雰囲気を醸し出しているように思う。第3回の富田靖子は、労咳を患い、落ちぶれた元の花魁であったが、なかなか迫力があった。富田靖子はもとより、怖さで主演女優を食ってしまうという女優根性を前にも見たことはあるが。
ただ、迫力という話になると、このドラマのストーリーはちょっと弱い。吉原ものといえば映画やドラマの『吉原炎上』が有名だが、生き抜いて昇り詰める女と、文字通り苦界に沈んでいってしまう女たちを冷徹な視線で描いてゆく、というものではない。
まあ、イケメンの同心に同情され、その剣で守られようっていうんだから、迫力があり過ぎても困る、ということなのだろうが。それを突き詰めれば同心と遊女たちとの関係ということになるが、駆け落ちした恋女房がやんわりブレーキにもなっているわけだ。そうではなかろう。あの吉原での掟が遊女だけでない、誰をもがんじがらめにしていたに違いない。遊女たちの霊、というものがあるとしたら、そこまで冷徹に描写された方が救われるのではないか。
かつての「大奥」ドラマも、容赦のない迫力という点においては、大河より民放に軍配が上がった。恋愛ドラマでは脇役の富田靖子に食われ、あまり芝居が上手い印象のなかった藤原紀香までもが記憶に残る存在感を示した。反目し、手段を選ばず相手を陥れようとする女たちが一瞬、あっと目と目を見交わした瞬間。それは将軍の子がふと左手を使ったときで、御側用人・柳沢吉保もまたそのとき左手で物を持ち上げ…。と、これは別の番組の話であった。
山際恭子
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■