フジテレビ
月曜 21:00~
【出演】
長澤まさみ、東出昌大、小日向文世ほか
【脚本】
古沢良太
久しぶりのフジテレビの秀作ドラマです。テレビに限らないが、自主制作でない限り、作品はクライアントが提供する〝場〟に必ず影響される。フジテレビらしいドラマがあり、テレ東らしいドラマがある。もちろんその殻を破ることも必要だが、過去の遺産を活かしたいなら〝らしい〟作品でなおかつ新鮮味があるのが望ましい。『コンフィデンスマン JP』はそういう仕上がりだ。Confidence manとは信用取り込み詐欺師のことで、タイトルからしてフジテレビらしい、バブルっぽい華やかさがある(失礼)。ただ上っ滑りになっていないのはやっぱり脚本がいいから。古沢良太さんなら見ないわけにはいかない。
古沢さんは映画『ALWAYS 三丁目の夕日』で有名だが、テレビドラマではなんと言っても『リーガルハイ』シリーズが記憶に残る。堺雅人さんが狂気のような小劇場的芝居を見せたドラマで、それを意図的に引き出すための長台詞が用意されていた。頭が切れ、社会常識を外れるというか外れざるを得ない異能の人である『リーガルハイ』の古美門(堺雅人)を、長澤まさみ(ダー子)が演じているような構図。切れ者だけど詰めが甘いところも古美門と同じ。それを常識人の東出昌大(ボクちゃん)とくせ者の小日向文世(リチャード)がフォローする。
これはないものねだりだが、堺雅人のような演技のキレを長澤まさみに期待するのはちょっと酷。元々の演技の基盤がぜんぜん違う。ただ女優としての長澤まさみの演技は素晴らしい。『海街diary』は四人のキレイどころ女優を集めた映画だったが、長澤まさみが出演していなければ退屈な作品だった。役どころの割り振りもあるが、匂ってくるような〝女〟を演じたのは長澤まさみだけで、むしろ役の理解能力がある上での演技だったと思う。そのねっとり感は『コンフィデンスマン JP』ではまだ出ていないが、ダー子がなぜ詐欺師になったのかは理由があるはずで、そこで脚本家が宛て書きするかもしれません。
『コンフィデンスマン JP』では毎回ゲスト(だまされる方の主役)が登場する。第一話は江口洋介、第二話は吉瀬美智子、第三話は石黒賢と豪華だ。第三話の城ヶ崎善三(石黒賢は)悪徳美術批評家で、真作の絵を贋作と鑑定して安く買い取り高値で転売している。美大生の女の子をチヤホヤして愛人にしてしまう女癖の悪い男でもある。生真面目なボクちゃん(東出昌大)が城ヶ崎の愛人になり捨てられた美大生と知り合ったことから物語は動き出す。名画を餌に、城ヶ崎をハメてやろうというわけだ。
ただでんでん(『冷たい熱帯魚』[園子温監督]を見て以来、でんでんさんが怖くてしょーがないんですけど)演じる絵画贋作師に書かせたピカソの絵を、城ヶ崎はあっさり見破ってしまう。それどころか贋作師を警察に突き出して、さらに美術評論家としての知名度を上げた。このあたりが実に古沢さんの脚本らしい。城ヶ崎は金にも女にも汚いが無能じゃない。またトリックが失敗すれば第二弾を仕掛けなければならないわけで、それがドラマに奥行きをもたらす。脚本家に社会常識がなければ書けないプロットである。
脚本の古沢さんは、いったん名声を得た美術品の価値が〝他者の欲望〟だということを知っている。ゴッホやルノワールだから人は欲しがるのだ。そういう他者の欲望につき動かされているコレクターのために美術批評家(鑑定家)がいる。城ヶ崎は価値がわからない人から安く買っても、名画を欲しがる金持ちに高値をふっかけて売ってもいいと見切っている。絵の価値のわからない人は買ってもらえれば10万でも100万でもいいわけで、買う方だって1000万出せる人が3000万出せないわけがない。高い安いと文句を言い出すのは城ヶ崎が〝値段を付けたあと〟の話しだ。そういう意味で美術評論家は画家よりも絵画界に君臨している。
余談ですが、贋作の骨董をブログでしょっちゅう自慢している人がいます。朝鮮唐津の徳利や唐津の筒盃がそう簡単に手に入るわけがないんですが、値段が高い骨董は軒並み贋作。もしくは時代や産地を間違えてブログで解説して悦に入っている。先日その人が都内の有名私設美術館で古唐津についての講演をしたのでブログも見たんですが、噴飯ものでした。唐津展開いておいて、贋作集めてるコレクターに講演させるってどーよ。ただこういうことは美術業界ではよくある。〝人間がニセモノなら集めている美術品もニセモノだらけになる〟ということ。学芸員だって無能な人はいる。もちろん城ヶ崎は、そんな底の浅い鎌倉文士やダメダメ学芸員ではない。
ダー子とボクちゃんとリチャードは、見かけほど城ヶ崎が無能ではないとわかると作戦を変える。美術批評家の一番弱いところを突く。名画の〝発見〟ですな。美術品は最初から高値がついているわけではない。〝誰か〟がその真価を発見して社会に紹介した。もちろん最高の栄誉は画家に与えられるわけだが、たいていは亡くなっている。発見によって美術批評家は目利きとしての大変な名声を得る。また確信をもって予めその画家の絵をコレクションしていれば、大もうけすることもできる。
〝無名の天才画家発見〟に至るための周到な仕掛けに乗せられて城ヶ崎はまんまとダー子たちにしてやられるわけですが、ラストシーンで彼が絵画を見る本物の目を持つ、奥行きのある人間であることがほんのり示唆されます。テレビドラマ的な救いと言えばそうなんですが、詐欺ドラマでは、だます側にもだまされる側にも〝知性〟がなければ面白くない。そこまで含めて『コンフィデンスマン JP』は秀作です。
山際恭子
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