数年前になるがPerfumeの曲をよく聞いていた。いまでもまだちょっとそんな感じが残っているが、Perfumeの三人は田舎から出てきた女の子ですという雰囲気を漂わせていて、好感が持てたのだ。親戚の姪っ子が芸能界デビューしたら、こんな感じかなと思わせるようなところがあった。ただグループとしてのキャリアは長く、結成は小学校五年生なのだという。どんな振り付けでも小一時間くらいで覚えてしまうというから、やはりプロだ。
Perfumeの曲を聴いているうちに、彼女たちの楽曲のほとんどが中田ヤスタカの作詞・作曲・プロデュースであることを知った。こじまとしことのユニットグループCAPSULEとして活動しているが、むしろPerfumeやきゃりーぱみゅぱみゅへの楽曲提供者として有名かもしれない。ポップスの楽曲に関してはいわゆるテクノ調が多い。ミュージシャンを使わず、ボーカル以外の音はすべてコンピュータの打ち込みで作っていることでも知られる。
くり返す このポリリズム
あの衝動は まるで恋だね
くり返す いつかみたいな
あの光景が 甦るの
くり返す このポリリズム
あの反動が うそみたいだね
くり返す このポリループ
ああプラスチック みたいな恋だ
(『ポリリズム』 歌 Perfume 作詞・作曲 中田ヤスタカ)
『ポリリズム』はNHKとACジャパン共同のリサイクルキャンペーンのCMソングで、テレビで頻繁に流れたこともあって大ヒットした。Perfumeと中田ヤスタカを有名にした曲でもある。中田さんはクライアントの要請に柔軟に答えることができる作家で、『ポリリズム』は「とても大事な キミの想いは/無駄にならない 世界は廻る/ほんの少しの 僕の気持ちも/巡り巡るよ」という歌詞で始まる。うっすらとした男女の恋愛感情に、リサイクルというテーマを引っかけているわけだ。ただサビの部分の歌詞には、中田さんの資質がとてもよく表れていると思う。
ポリリズムは音楽用語で、一つの楽曲中に異なる拍子を複数使用する技法のことである。ポリエチレンを想起させる響きがあることも、『ポリリズム』がリサイクルキャンペーンソングのタイトルになった理由らしい。ただそんなことはどうでもいいだろう。『ポリリズム』のサビの部分の歌詞、つまり曲の主張は、繰り返すことの快楽にあると思う。心地よい音楽を繰り返すことは一つの「衝動」であり、それは「まるで恋だね」と語られる。またそれは「プラスチック みたいな恋」なのである。
中田さんはインタビューで、「無理に音や歌詞を作り出そうとすることはしない。自然と浮かんでくるものでなければ、いい作品にはならない」という意味のことを言っていた。中田さんの曲作りの姿勢をよく表している言葉だと思う。中田さんの楽曲はテクノと言われるが、それはコンピュータを使った打ち込みだからである。ちょっと前までは、日本語を英語のイントネーションで歌うのが大流行だったが、中田さんの楽曲は一音一語の古典的な形式である。エフェクトは多用しているが曲と歌詞の流れには無理がない。
中田さんのレコーディングスタジオの映像を見たことがある。驚くほど狭いスペースの中にキーボードとコンピュータ類が置かれ、ボーカルレコーディング用の電話ボックスのような部屋があった。歌手はこの電話ボックスの中に入って、椅子に座って歌を録音するのである。その理由を中田さんは、「たいしてうまくもないのに、声を張り上げて歌ってもしょうがない」、「あたかも気持ちがこもっているように聞こえる歌い方は嫌いだ」と言っていた。いかにも中田さんらしいボーカル(人間の声)への解釈だと思う。
歌手(ボーカリスト)は一つの楽器である。もちろん好調な時、不調な時はあるだろうが、歌うという肉体的な快楽に憑かれた表現者たちである。しかし作詞・作曲、プロデューサーとしての中田さんには、そのような快楽は魅力がないのだろう。彼の快楽は純粋な音の流れにあると思う。ボーカルはあってもなくても良い。歌詞や曲調の変化も必ずしも必要ではない。心地よい音が無限にループするのが彼が愛する音楽の基本である。表現者としての中田さんにとっては、ボーカルは曲の構成要素の一つに過ぎないのである。
もちろん中田さんのような音作りの姿勢は、自ずから楽曲の表現者を選ぶことになる。Perfumeのメンバーは初めて中田さんから楽曲の提供を受け、レコーディングした時に強い抵抗を覚えたと言っていた。彼女たちはアクターズスクール広島の出身で、SPEEDの大ファンだった。一曲一曲を大事にしてその内容を理解し、感情を込めて歌うのが歌手だと教え込まれていたのである。しかし中田さんのプロデュースは正反対だった。自分たちの声にエフェクトがかけられ、地声とは異なる形に変えられていることにもショックを受けたようだ。
ただ共同作業は面白いものだと思う。Perfumeが中田さんのプロデュースを受けたのは彼女たちがまだ中学生の時である。中田さんは緊張した面持ちの女の子たちの扱いに困り、彼の指示が理解できず泣き出したりするメンバーに手を焼いたようだ。しかし全権を握るプロデューサーとはいえ、何度もコラボレーションをする表現者との間に相互影響が生まれないはずがない。中田さんがPerfumeに提供した楽曲の中には、Perfumeが存在しなければ書かなかったかもしれない曲も含まれていると思う。
最高を求めて 終わりのない旅をするのは
きっと 僕らが 生きている証拠だから
もしつらいこととかが あったとしてもそれは
キミが きっと ずっと あきらめない強さを持っているから
僕らも走り続けるんだ Yeh! こぼれ落ちる
涙も全部宝物 Oh! Yeh!
現実に打ちのめされ 倒れそうになっても
きっと 前を見て歩く Dream Fighter
(『Dream Fighter』 歌 Perfume 作詞・作曲 中田ヤスタカ)
『Dream Fighter』は恐ろしく前向きな姿勢を臆面もなく表現した歌詞で、ちょっと中田さんらしくない。しかしPerfumeが表現者として宛て書きされた曲だと考えれば、それが生まれた背景はよく理解できるのではないかと思う。また中田ヤスタカという柔軟な表現者の特徴もよくわかる。彼はある意味で器用過ぎるのかもしれない。自由に音楽を作る時よりも、数々の制約を課された場合の方が、絞り込んだシャープな楽曲を作り出す傾向がある。自分のやり方を変えないまま、しかしポップスやアイドルの要件を満たす楽曲を作り出せるのである。
中田さんとPerfumeのコラボレーションは現在も続いているが、ヒット曲が出る確率はきゃりーぱみゅぱみゅに移りつつあるようだ。中田さんときゃりーぱみゅぱみゅのコラボレーションとその相互影響も面白い。ぱみゅぱみゅは日本のカワイイ文化のファッションアイコンと言われるが、裏がほとんど見えない。表層しかないアイドルのようだ。中田さんとの相性はPerfumeよりもいいだろう。しかしぱみゅぱみゅについて考えるのはまた今度。
外賀伊織
■『ポリリズム』 歌 Perfume 作詞・作曲 中田ヤスタカ■
http://youtu.be/EZ9x1keJW4A
■『Dream Fighter』 歌 Perfume 作詞・作曲 中田ヤスタカ■
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