ザ・ベスト・オブ・山種コレクション
於・山種美術館
http://www.yamatane-museum.jp/
会期=[前期]江戸絵画から近代日本画へ 2011/11/12~12/25
[後期]戦前から戦後へ 2012/01/03~02/05
入館料=1200円(一般) カタログ=2000円
評価=総評・90点 展示方法・80点 カタログ・80点
山種美術館は財団法人・山種美術財団によって運営されている。設立者は山種証券(現・SMBCフレンド証券)創業者の山﨑種二氏で、子息・富治氏が二代目館長を勤め、現在は富治氏の息女・妙子氏が三代目館長に就いておられる。山﨑種二氏、通称ヤマタネさんは明治26年生まれで辣腕の相場師・経営者として知られた方である。ヤマタネ氏は厳しい実業の世界を生き抜きながら、大正末頃からいわゆる日本画を蒐集し始めた。投機と利殖を兼ねて絵画を集める実業家は多いが、ヤマタネ氏のコレクションは私財を投じて入手したプライベートコレクションだった。
コレクションを見れば一目瞭然だが、種二氏は希代の目利きだった。財力がなければこれだけのコレクションを集められないのは言うまでもない。ただ種二氏の美術を見る目の確かさと蒐集にかけるひたむきな情熱が、現在も山種コレクションの一種すがすがしい晴れやかさとなっているように思う。評価が定まった古美術を買い集めるよりも、同時代の画家の絵を蒐集する方が遙かに目の力が必要なのである。
『ザ・ベスト・オブ・山種コレクション』は山種美術館創立45周年記念として開催された。カタログ巻頭で妙子氏が書いておられるように、山種所蔵作品約1800点から名品を選りすぐった展覧会である。開催に際して美術館と縁の深い識者の方たちに「山種コレクションベスト3」を選んでもらうアンケートを実施し、それもカタログに掲載されている。公益美術館ではあるが、種二・富治・妙子氏3代に渡って蒐集された山崎家の名品をまとめて見ることのできる展覧会と受け取ってもおもしろいと思う。ちなみにアンケートでベスト3に選ばれたのは、第1位「速水御舟 炎舞」、第2位「村上華岳 裸婦図」、第3位「竹内栖鳳 班猫」である。いずれも画家の代表作になっている名品である。
山種は明治維新以降の日本画中心の美術館だが、その質の高さは全国でも屈指である。ただカタログで美術史家の山下裕二氏が書いておられるように、この美術館は「蔵が深い」。美術展は前後期に分けて開催されたが、「前期・江戸絵画から近代日本画へ」では江戸絵画の優品が展示された。岩佐又兵衛『官女観菊図』、俵屋宗達・本阿弥光悦合作『新古今集鹿下絵和歌巻断簡』などは、日本の美術館はもちろん、海外の美術館も欲しがる名品である。写楽、広重、北斎らの浮世絵の名品もある。「後期・戦前から戦後へ」で展示された御舟、栖鳳、華岳、横山大観、川合玉堂、鏑木清方、上村松園、東山魁夷らの作品が名品揃いであることは言うまでもない。その他にもこれから再評価・再検討が始まるだろう作家たちの作品が数多く収蔵されている。公立美術館のように網羅的に集められたのではなく、蒐集者の好みと審美眼に基づいているが、山種コレクションは裾野が広い。
僕が山種コレクションで一番好きなのは、御舟の『名樹散椿』と栖鳳の『班猫』である。御舟は41歳で夭折した画家だが、その短い生涯に素晴らしい作品を残した。山種の御舟コレクションは昭和51年の安宅産業破綻の際に、二代目山﨑富治氏が私財を処分して買い取った105点で不動のものになった。御舟作品の数は決して多くない。山種の御舟コレクションが今後も世界最大だろう。日本画を見慣れていない方にも御舟の絵の特徴はすぐに伝わるだろうと思う。装飾性をそぎ落とした風景画の中に、非常に高い精神性を表現した画家なのである。またカタログの表紙にもなっている栖鳳の『班猫』は神品と呼びたくなるような名品である。栖鳳はおもしろい画家で、『班猫』のような細密な絵と南画風のざっくりとした絵を描き分けた。『班猫』は栖鳳の細密絵の代表作である。山種には栖鳳のざっくり絵も収蔵されている。
現在のような厳しい経済状況の中で美術館を運営されている山種美術館に敬意を表して総評は90点。実際、山種コレクションは素晴らしい。まだ行かれたことのない方には、是非一度訪問されることをおすすめします。展示方法は平均点です。照明や展示ケースは細部まで工夫が凝らされていますが、やっぱりちょっと会場が狭い。無理でしょうが、東京国立博物館などの広いスペースで、前後期に分けない山種名品展をゆったり見たいなぁと夢想しました。カタログも平均点です。日本画はカタログ掲載写真の大きさでずいぶん印象が変わるものです。今回のカタログは全展示作品を収録したため写真が小さい。撮影の時の照明も少し明るすぎる(メリハリがありすぎる)かな。会場で見た時と印象の違う絵がだいぶあります。カタログ解説は必要十分な内容です。明治維新以降の日本画に不案内の方は、カタログ写真を見ながら巻末の「作家解説」をお読みになることをおすすめします。近代日本画の主要作家の業績がわかりやすくまとめられています。
鶴山裕司
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■