マツコの知らない世界
TBS 金曜日 深夜 0:50~
ある狭い、特殊なジャンルのスペシャリストから話を聞き、プレゼンまでさせる。聞き手がマツコ・デラックスであるという番組だ。
以前、ジャニーズのV6も『クマグス』(南方熊楠、博物学といった意味か)という番組をやっていて、似たようなコンセプトだったが、こちらの方がピンが合っている。話がきっちりマツコ色でまとめられて、深夜版『徹子の部屋』か、といった趣きが。
過去の内容は大きく、「小学校お受験事情」、「佐川急便の世界」、「選挙の世界」といった “ 事情 ” 系と、「インスタントラーメンの世界」、「名刺の世界」、「ロボットの世界」といった “ モノ “ またはコレクション系に二分される。
で、どちらが面白いか、と言えば、やはりマツコらしさが炸裂するリスクを抱えている、という意味では前者である。リスクはリスクだが、それはリスクに見えるだけで、タブーを今にも冒す身振りを見せつつ、その境界からぎりぎりのところで身をかわしてみせる、というのが人気テレビタレントの芸というものだ。
それにはタブーというものに対する、相当に透徹したセンスが試される。ぎりぎりのところで露わになる社会性は、スリリングなエンタテイメントなのだ。それをどこで鍛えたのかは、人それぞれということになる。有吉くんは大陸の旅と業界の浮き沈みで揉まれたのだろうが、明石家さんまは謎だ。生まれつきもあるのだろう。その感受性に加えて、マツコは性の狭間での身の処し方によって、というところだろうか。
2013年3月15日の総集編1時間SPでは、ミニカーやロボットといった “ モノ ” 系が再オンエアされた。ミニカーを集めている少年(国際暁星小学校6年生)のひどく落ち着いて賢げな様子、ロボット開発者のイケメンぶりをお約束としてイジる以外、“ モノ ” に感心しているしかない。
さらに4月5日(火)この総集編をパワーアップして2時間SPが放送されると言う。「皆さんが欲しくなる、すぐに買いに行きたくなる “ モノ ” が盛りだくさんとなっているはずです!!」とのことで、この「知らない世界」という番組が “ モノ ”、それも購買によって入手できるという、コレクションというより資本主義的な “ モノ ” によって規定されつつある、ということだろうか。
それは『徹子の部屋』化を離れ、テレビ・ショッピングに接近するということで、あるいはむしろマツコ・デラックスにとっては正しい路線なのかもしれない。深夜の怪しげな感じを踏み外してしまっては、オカマがすたる、と言いそうではある。
“ モノ ” に対しての見所としては確かに、マツコによって「アタシ、これ好き」と言い放たれる瞬間にあるだろう。“ プレゼン ” 含みで出演しているその人が、「ヨカッた」という声にならない視線を送る。なぜ好きなのかは問題ではないし、特に説明もない。が、視聴者にはなんとなく「そうだろう」とか「なるほどね」とか「好きそうだ」といった了解が伝わってくる。「知らない世界」のほんの片鱗でも、「見知った世界」になるのは、こういった瞬間にしかあり得ない。
田山了一
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■