一.エレクトリック・ライト・オーケストラ
復活、再開、リボーン。ストップからのスタートという「動き」を内包するだけあって、これらの言葉は「ストーリー」との相性がいい。平たく言うなら、エモみが深い。平たくねえか。この案件、音楽を聴いているとグループ、個人問わずよく出会う。いわゆる再始動、再結成、○○年ぶりのリリース。個人的に「ライヴで過去曲披露」パターンはアタリ率が高い。ただアルバム制作までいくと少々厳しい。期待されるモノが想像し易いが故に、行き違いが起こりやすいのかも。とりわけバンドはヒト同士の共同作業。送り手側がまとまらない場合も多い。性格、能力、カネ。亀裂が入るきっかけは数多ある。それが良い緊張感となって……のパターンもあるが、きっと短命。
今浮かんでいるのはELO。エレクトリック・ライト・オーケストラ。少し前にジェフ・リンが「ジェフ・リンズELO」の最後のツアーを発表した。ほら、名前に亀裂の痕跡が。ここは「ELO Part II」→「The orchestra」→戻して「ELO」→「ジェフ・リンズELO」とバンド名が流転する。付け加えれば前身バンドは天才ロイ・ウッド率いるザ・ムーヴ。ジェフとロイの二本柱でスタートしたELOだったが、程なくロイが脱退しジェフがリーダーに。言い忘れていたけどジェフも天才。キャリアを羅列するより、ジョン以外のビートルズ・メンバー三人と共演した唯一のミュージシャンと紹介した方が早い。ちなみに彼、「ジェフ・リンズELO」名義でアルバムを二枚作っている。そして前述に反するが両方とも良盤。聴きたいモノが聴ける。ただ個人的にロイ贔屓なので、名盤認定には至らず。これ、本当に好みの話。真逆の意見の方が多い筈。ちなみにロイを好きな理由は「不遇な変態」だから。平たく言うなら、エモみが深いのよ。
三年前より建物改装のため長らく閉めていた王子の居酒屋「Y」が、三ヶ月前に営業を再開。行かねばと思いつつ、忙しさと暑さにかまけて延び延びに。先日ようやく重い腰が上がるようになりまして。若返った/狭くなった/様変わりした、との評判はチェック済みなので特には驚かず。まだ一度きりの印象だが良店かと。若い店員さんたちも感じ良く、振り子時計もあのまんま。無論ここは好みの話。思い出したのは渋谷の立飲み名店「F」のリニューアル。あそこも若く狭く様変わりしたが、今でもちょくちょく顔を出す。誰かの名言を引くまでもなく、決して過去へは戻れないことを胸に、酎ハイ二杯とハムカツでお勘定。これで柴三郎一枚。令和の世に素敵じゃないか。
【 Shine a Little Love / Electric Light Orchestra 】
二.ジャジーアッパーカット
「Y」からの帰り道、久々の王子なので散策を……のつもりが駅を越したところで赤羽の立飲み、創業五十余年の老舗「I」の支店を発見。迷いなく散策は中断、ガラリと扉を開けると意外にも余裕のある店内。本店はいつ行っても結構な混み具合なので、ラッキーかつ拍子抜け。玉ねぎスライス130円を肴に酎ハイで想定外ののんびり時間。此方は「元祖」の呼び名に相応しく、ルーツに掲げる立飲み店が都内各所に。まあ、その辺りの話は後日改めて。目下の問題は店のネームが入ったコインケース/500円。買おうかどうかと沈思黙考。贅沢品に思えるのは、安すぎるメニューのせい。
復活まではいかないがアルバム再発、というケースがある。デモ音源やアウトテイク等のオマケをパラパラ散りばめ何度となく再発されるのは、いわゆる「名盤」。そそられるのは名盤とは呼ばれないが、諸々の理由でプレミア化している盤の再発ニュース。最近飛びついたのはジャジーアッパーカットの再発盤発売の一報。A-MUSIK、フールズ、ジョン・ゾーン・ユニット等々、クセ強/アク強な来歴のメンツにDJクラッシュ。それだけでも腹一杯だが実際の音も良かった。正確にいえば、高校生の耳にはとびきり新しく聴こえた。今や伝説のレンタル屋「ジャニス」で借りた唯一のスタジオ盤『ジャジーアッパーカット』(’92)。ダビングしたテープは引っ越しを重ねる中で行方不明になり、長らくご無沙汰だったアルバムと数十年ぶりの邂逅。なるほど、ひとつ思い当たることがあった。日本語ラップに関して、ライミング、特に脚韻の進化については素直に感心/感嘆しつつも、やはり耳障りよりアジテーション効果を期待する資質/嗜好はこの時期に形成されたのかも。誤解を承知で言えば、内容への共感は二の次。やはりアジり方の破壊力や美しさに胸が躍る。
【 DEATH TO THE WAR / JAZZY UPPER CUT 】
三.レベッカ
再開といえばもう一軒。数年前に一旦店を閉じた創業七十余年(!)の老舗ラーメン屋、神田「S」。メニューは少なく大抵ラーメンかカレーを選ぶのだが、此方に最後に訪れた際、ラーメンが切れていた。ならばとカレーにチェンジし、結果満足したのだが、やはり何となくモヤモヤ。先日それを晴らさんと数年ぶりにリニューアル後の店舗へ。まずはビールの小瓶で喉を潤してスタンバイ。いざ運ばれてきたラーメンはほんのり甘く懐かしい味わい。意外にペロッと平らげた。あの頃ならカレーを追加しただろうけど、こちとらリニューアル無しの老朽化オンリー。すぐに諦めお勘定を。
バンド再結成、アルバム再発の余波として「当時は興味なかったけれど」パターンがある。例えば今年全国ツアーを行っているレベッカ。当時は好きでも嫌いでもなく興味ナシ。もちろん曲は知っていたし、ぼんやりインタビューも読んでいた。令和の世に気になったきっかけは、リーダー・土橋安騎夫の作曲能力の高さ。興味が無かったはずなのに、聴けば細かな旋律まで覚えている。あとはヴォーカル・NOKKOの威勢の良さだろうか。歌唱力と相俟ってとても魅力的。これ、黒幕は自身の加齢。あれから数十年。あの頃大人だったオネエサンも、今振り返ればチャキチャキのお嬢さん。そりゃ感じ方も変化する。まあ、そんな辛気臭い種明かしはうっちゃって、当時のライヴ映像@早大学祭(‘86)をご覧あれ。諸々納得の証拠資料。
【 Private Heroine / レベッカ】
寅間心閑
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