萩野篤人 新連載小説『春の墓標』(第01回)&新連載評論『〈寓話〉死んだらそれきり。』(上編)をアップしましたぁ。『アブラハムの末裔』で金魚屋新人賞を受賞した萩野さんの小説と評論の連載開始です。ジャンルは違いますが萩野さんの文学的テーマは一貫していると思います。パンドラの箱を開ける、ということですね。
『春の墓標』は介護小説です。現代では誰もが興味を持つ大文字の社会的問題がなくなってしまったのでこのジャンルの小説は比較的数多く書かれています。ただ萩野文学に通底するのはいってみればこの世の〝理不尽〟です。平穏に暮らしていて、またそんな暮らしをしたい人間にどうして理不尽としか言いようのない事が起こってしまうのか。これは人間の生にとって根源的なテーマです。もちろん簡単な解答などありません。
わたしたちは欧米的〝文化的普遍者〟の環境で文筆活動をしています。可能な限り厳密な用語定義と論理的思考方法がその骨格です。そしてこの骨格はヨーロッパからもたらされた。そしてヨーロッパが生み出した文化的普遍者(の思考方法)はキリスト教に基づいています。
『アブラハムの末裔』で萩野さんは旧約聖書を始めとした欧米思想や文学を援用されています。しかしそれはじょじょに日本的なものに移行してゆくでしょうね。欧米には神がいる。あるいはいた。ではなぜ欧米の方がシリアルキラーが多く社会問題の対立も激化しやすいのか。無神論であるはずの日本でなぜ(今はギリギリのラインに来ているにせよ)秩序が守られる傾向があるのか。21世紀初頭はそういった根本的問題軸を立ててもいい時期です。
『春の墓標』は私小説です。伝統的に神のいない世界での現世の地獄を描くのが日本の私小説のあり方です。こういった作品を重ねてゆけば萩野さんの批評思考もじょじょに変化してゆくと思います。
■萩野篤人 新連載評論『〈寓話〉死んだらそれきり。』(上編)縦書版■
■萩野篤人 新連載評論『〈寓話〉死んだらそれきり。』(上編)横書版■
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