一.Pファンク
結局、今年の夏は大ハズレだった。長々と暑く、「地球沸騰化」や「四季の消滅」等々、取り留めなく重苦しい話も尽きない。扇風機と洗濯機だけでなく、バリスタマシンまでダウンしたのもきっとこの暑さのせい。
ただ色々と鈍化したので、汗だく覚悟で呑みには行く。陽が落ちるまで待ったりはしない。どっちみち暑いもの。さすがに日傘こそ持ち歩かないが、気付けば日陰を選んで歩いている。コンビニや薬局、スーパーで涼を取りながらのデス・ロード。目指す呑み屋に求めるものはエアコンとリラックス。たどり着いたのは三ノ輪の居酒屋『B』。此方で再放送のドラマを眺めながら、250円のチューハイで生き返る。
肴はどれも美味しい。しかも安価。刺身に揚げ物、白菜の古漬け。堪らん。ただ炎天下に訪れる理由は別にある。此方の店主のちゃきちゃきな感じが実に素晴らしい。常連さんから新参者の私まで、ぐっと惹きつけるキャラクター。特に話しっぷりがいい。自ら話し、常連さんをいじり、相槌を打ち、また自ら話し……と延々続くグルーヴはクセの強さの分、癖になる。
暑い時こそ熱い物、なんて馬鹿らしい。冷たい物で頭キーンとなるくらいで丁度いい。ただ音楽はちょっと違う。暑い時に熱い、いや暑苦しいヤツを聴きたくなるかもしれない。たとえばPファンク。パーラメントとファンカデリック、ジョージ・クリントン翁率いる二組のバンドの集合体。いや、wikiには、これに加えて「音楽ジャンル」ともある。概ね異論ナシ。まあ特濃ファンキーってことで。
大別すると「ファンキー」は二種類。ドロッとしてるか、キレがいいか。その調合で味が決まる。勿論、個人の見解です。Pファンクは特濃だけに「ドロッと」多め。ライブで一曲十分をオーバーし、延々続くグルーヴの輪郭が溶け出す辺りこそ、得も言われぬほど美味い。ライヴは公式盤、海賊盤、どれもドロッとしているが、短時間でファンキーを感じたいならライブ映像を検索する方が早いかも。
【 Give Up The Funk / Parliament, Funkadelic 】
二.リン・コリンズ
キレのよさを味わいたいなら、やはり御大「JB」ジェームス・ブラウン、そしてバックバンドのJBズだが、更に小気味よさをプラスしたJB一座の歌姫、リン・コリンズも強烈。御大に見込まれ、ステージを存分に盛り上げ、「女伝道師(Female Preacher)」と呼ばれた彼女とは、高校生の頃に初対面。ファンク勉強中のテキストとして聴いていたオムニバス盤が出会いの場。まだファンキー・マナー見習い中の新参者が、一発で気に入った唯一の曲だった。タイトルが長すぎるので、空耳から「ギーナナ」と呼んでいたその曲は、2ndアルバム『Check Me Out If You Don’t Know Me By Now』(’75)収録で、JBプロデュース/JBズのバックアップ。シンプルな造りが彼女の声を引き立たせ、今も出だしのシャウトでスイッチが入る。
浅草橋の名店「N」の支店の跡地に出来た、御徒町のやきとん屋「M」。此方の店長は、「N」で長年修行を積んだ方。こういうDNAは裏切らないので、上野まで出た折は必ず寄らせてもらう。シンプルに好きな串を選ぶだけなのに、細かな逡巡を繰り返してしまうのはどれも美味しいから。しかも此方は「一品料理」や「本日のオススメ」も魅力的なので困りもの。なので最初のオーダーは、名物「皿ナンコツ」300円と決めている。まあ悩んでいる時も、頬張っている時も同様に楽しめるなんて本当贅沢。
【 Rock Me Again & Again & Again & Again & Again & Again / Lyn Collins 】
三.フィロソフィーのダンス
高校生の頃、一時期利用していた練習スタジオがあったり、老舗のやきとり屋「I」の各店舗を巡ったりと、吉祥寺は縁遠い街ではない。ただハモニカ横丁には少々縁遠かった。原因となるエピソードはなく、本当にただ何となく。別に一念発起した訳でもないけれど、最近界隈で呑むことが増えた。先日立ち寄ったのは、立ち飲みワインバー「B」。カウンターのみで身体剥き出し。暑い日に何も、と思うが、扇風機の風を貰いながら冷たい泡でリフレッシュ。お釣りが出ないなら現金利用可/通常は電子マネーで、と教えてくれた店員さんは若い女性。先客は中年の常連男性。数日前の埋め合わせでラーメンを奢るから、とスマホを操作。少しして現れたのはウーバーの配達員。即ちラーメン到着。おおデジタル、と色々感心していると、二人目の常連さん到着。還暦越えの彼は、これからライブハウスに行くところ。重めの赤を頼んで電子マネーでお支払い。これはこれでファンキーだな、と数杯目の泡をオーダー。
モーニング娘。の「LOVEマシーン」(’99)を例に挙げるまでもなく、女性アイドルグループとファンキーの相性は良い。ピンクレディーの「Kiss In The Dark」(’79)は「ディスコ」、Babeの「Give Me Up」(’87)は「ユーロ」、とイメージの差異はあるが、「ダンス・ミュージック」という大枠に入れれば、アイドル@ファンキーが突然変異ではないことも分かる。ここ最近では櫻坂46の「流れ弾」(’21)が、ファンキーに「スピーディー」と「クール」を加味していて驚いた。そして今現在ヘビロテ中なのが、フィロソフィーのダンス。ワタシ、もうどんなグループ名でも驚かない。手練れのプロデューサー、企みに満ちた楽曲、キーワードは「Funky But Chic」。渋谷系の元ネタを探していた時のあのワクワクが! とバックボーンは盤石。噛み応え、滅茶苦茶ある。無論、聴き応えも抜群。まず耳を奪われるのは、日向ハルのグルーヴ感溢れる歌声。各方面で絶賛されるのも納得の逸品だが、そこに比重をかけ過ぎないグループとしてのバランスが絶妙。硬派を自認するヴァイナル・フリークの方にこそ耳を貸してほしい。きっとアレコレ言いつつ楽しめる。夏前にリリースされた最新シングル「シュークリーム・ファンク」(‘23)も、是非ご賞味あれ。
【 Gimme Five! / フィロソフィーのダンス】
寅間心閑
寅間心閑
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