一.kamomekamome
恐れていたとおり連日暑い。毎年暑い時期は、呑みに行く回数が減るが、こう長く続くと何とか順応しようと変化が起こる。進化? いや、きっと鈍化。暑さに鈍くなり、フラフラと日陰を選んで呑みに行く。
つい先日も少しばかり気温が低いからと夕方から外出し、高円寺にて口開け。いつものコースだけでなく新規開拓しなくちゃな、と散策するうち、いつしかコースアウト。何となく野方方面に足が向いていた。あっちの方は勝手知ったる地元の近く、多少酔っていてもナビ不要。こんな「プチ帰省ごっこ」も大人の嗜みとのんびり歩く。缶チューハイが切れそうなので、コンビニの位置を思い出していると予想外の場所に発見。きっと新店。こんなところにねえ、とプチ帰省を堪能。と、段々通りに人手が増えてきた。もしやの予感はコンビニに入って確信へ。どうやら今日は神社で盆踊り。子どもたちはテンション上げて、大人たちは緩んでいる。思いがけずハレの風景。では、と缶チューハイもロング缶にチェンジ。これも一種の御相伴。
少々時間が遅いせいか、派手に弾ける感じではなく、どことなくしっとり。路肩で座り込む爺さんの後ろで、幼い浴衣姿が闇に溶け、ラフな格好の家族連れ同士は静かに挨拶を交わしている。変わりつつある見知った景色に、祭りの風情が混ざり合い、記憶の並びが少しだけ狂ったような不思議な心持ちに。そこからまたしばらく歩けば人手がなくなり、しんと静まった住宅街。さっきの祭りが嘘のように、ケの風景が商店街へと続いている。
異世界へ迷い込むには絶好のシチュエーションだが、迷い無く入り込んだのは野方の立ち飲み「S」。種類豊富なもつ焼きから、ナンコツ、チレ、タンと、ケのラインナップを選び、ついさっきの情景を思い出す。店内は客の切れ間らしく貸し切り状態。チューハイを飲みながら窓の外を覗くと、ハッピ姿の集団が足早に通り過ぎていった。
音楽を聴くことと同じくらい、音楽について書かれたものを読むことは楽しい。特にガイド的なもの。未聴の音楽について書かれたものは興味深い。様々な具体例を挙げてその姿を正確に伝えようとするものもあれば、自分の感動/感激を記すことで、その意義を伝えるものある。ただ勿論、上手くいかない場合もある。まあ、結構ある。
スピード、音色、ノイジー。ハードコア・パンクバンド、kamomekamomeの音楽は、パンクロックとして必要なものを全て兼ね備えている。本当、最高。ただ聴いた印象はパンクロックのソレではない。少しだけ狂ったものに触れている感じ。怪しいというか、妖しいというか。それはきっと言葉=歌詞の力で、本当にスッと入ってくる。もちろん基本的にノイジーなので、全てが理解できる訳ではない。ただ聞き取らせる箇所のチョイスが秀逸。プログレ的な展開も魅力的で、ガイド的には「究極」「極北」という単語が似合いそう。どのアルバムも素晴らしいが、個人的にはセカンド『ルガーシーガル』(’05)のギュッと詰まった感じが好み。
【メデューサ / Kamomekamome 】
二.マイルス・デイヴィス
どんな店で呑もうかと考えた時、真っ先に浮かぶのは立ち飲みや角打ち。気軽だしハシゴもしやすい。ただ大人の嗜みとしては、地元密着型/個人経営/老舗の居酒屋が最適かもしれない。常連率は高く、価格帯も不明だったりするが、そこは勘と運を頼りにトライ。初めはオーダーのペースが掴めなかったり、常連専用の座席があったり、大将の声が小さかったり、色々大変なこともあるけど、大人だろう? 勇気を出せよ。
そんな感じで先日訪れたのは、創業六十余年の西荻窪の居酒屋「C」。コの字のカウンターの端に座り、まずは大瓶から。喉を潤しつつ何を頼むか考え中。常連客の会話、テレビ番組のチョイス、そしてもちろん酒や肴。注目すべきポイントは、其処彼処に溢れている。初めての店の日常は、自分にとって非日常。ハレとケの逆転に身を委ね、少し余所行きの顔で。
父親がクラシックギターを弾いたので、小さい頃からロドリーゴ作曲の「アランフェス協奏曲」は聴いていた。ただ、あんなに好きだった時代劇「必殺仕事人」のテーマ曲とは結びつかなかったので、それほど好みではなかったのかも。最近よく聴くのが、この曲を取り上げているマイルス・デイヴィスの『スケッチ・オブ・スペイ』(’60)。昔は緩慢/難解に思えたギル・エヴァンスのアレンジが、今はとても興味深く響く。どの音色に注目するかで、その情景が移り変わっていく。
【 Concierto de Aranjuez: Adagio / Miles Davis 】
三.スザンヌ・ヴェガ
大人の嗜みとして「蕎麦屋で一杯」なんて、とてもありきたり。でも、わざわざ外すのも気持ち悪いのでサラッと。いわゆる都内の銘店で好きなのは神田の「M」。理由は単純。あの界隈に行く機会が多かったから。日本橋ならあそこになったし、麻布ならあそこになったはず。神田のあそこで相席上等の中、リラックスした諸先輩方に混じるのも面白いけど、実は吉祥寺の支店の方が好み。デパートの食堂コーナーという場所柄、家族連れも多くて照明も明るい。蕎麦味噌付きのビールをちびちび飲んでから、せいろを一枚。そこは日本酒、なんて言わせない。このシンプルな組み合わせが私のハレ。
スザンヌ・ヴェガのセカンド『孤独』(’87)の1曲目「トムズ・ダイナー」は最初から最後まで彼女のアカペラ。短編小説風の歌詞も素敵だが、それを運ぶ旋律も印象深く、一聴しただけで記憶のどこかに貼り付いてしまう。ちなみに私に貼り付いていたのは、昔のクリーミングパウダーのCM経由。本人が知らないところで、音声ファイルMP3の開発に使用されていた、というこの曲は癖になるタイプのシンプル。きっとそれは彼女の声と拍子の揺れのせい。
【 Tom’s Diner / Suzanne Vega 】
寅間心閑
■ kamomekamomeのCD ■
■ マイルス・デイヴィスのCD ■
■ スザンヌ・ヴェガのCD ■
■ 金魚屋の本 ■
■ 金魚屋 BOOK SHOP ■
■ 金魚屋 BOOK Café ■