一.ザ・ラッツ
サブスク全盛である、なんて書き出すと文句をつけそうだがそうではない。音楽、美容、家電、食料、車、習い事、果ては住居までサブスク可能。私も音楽系こそ使っていないが、動画系は利用中。良きアイデア/システムだと思うし、今後更に利用する可能性は高そうだ。音楽系に関しては、現状で満足しているのでわざわざ導入しないだけ。興味深いのはいわゆる「サブスク解禁」をしないアーティスト。一生解禁しないと宣言した山下達郎を先頭に、ハイロウズ(?クロマニヨンズ)、小沢健二(部分的)、ジム・オルーク等々並ぶ「未解禁」組。その中にブランキー・ジェット・シティも名前を連ねている。個人的には納得というか、然もありなん。ただ先日、フロントマンだった浅井健一のインタビューをネットでチェックした際、その記事に付いたコメントには少し驚いた。サブスク解禁を望む内容が複数あり、しかも投稿者は当時からのファンが多数。理由は「まだ未聴の若い連中の耳に届かせたいから」。令和ではレコード、カセットはもとよりCDも聴けない人が多い、という話と組み合わせて、然もありなん。やや過保護かなと思わなくもないが、私の価値観が動かされたのは事実。確かに良いものは勧めたくなる。
新店開拓を念頭に、先日呑んでいたのは西武池袋線沿線。何軒目かに立ち寄ったのは、大泉学園の立飲みバー「Y」。昭和感溢れる建物の半地下、という好立地。扉を開けるとザ・ラッツの「Babylon’s Burning」(’79)。懐かしくて、ちょい渋めの選曲。嗚呼、長い付き合いになるかもしれない。でもいきなりそんな話を振るのは不粋だろう、とメニューに目を落とす。と、マスターが一言「ノイ!ですね」。バンドのTシャツが名刺代わりになるのは良店の証。そこからは遠慮なく音楽の話を。此方はウイスキーが豊富なだけでなく、プラス100円でソーダを提供。気軽にハイボール化させてくれる。ディスクを交換している時に目に入ったのは、10枚組のパンクのオムニバス盤。それ持ってましたよ、とまた盛り上がり初期パンク漬けに。頭のネジ、ゆるませてもらいました。帰り際「また必ず」と口にした一言があんな結末を呼ぶなんて、この時はまだーー。
付き合いの長いアルバムを聴く時の楽しみは、確実にもたらされる「快楽」と予想外の「発見」、これに尽きる。どちらかが欠けても、長くは付き合えないはず。快楽はルーティンで問題ないが、発見は然に非ず。初期パンクのように、情動や熱量に価値を見出しがちな音楽にも「企み」は求めたい。それがなかなか音には表れないとしても。例えばザ・ラッツのデビュー盤『ザ・クラック』(’79)は、比較的容易にその企みに触れられる。まるでクラッシュの三枚目までを、一枚に押し込めたような音像。これは無論、褒め言葉。
【 Babylon’s Burning / The Ruts 】
二.スペシャルAKA
パンクの文脈でスカに出会う、というパターンは所謂あるある。無論、私もそのクチ。最初に聞くのは大抵ザ・スペシャルズなので、正確にはスカというより「2トーン」。これ、元はレーベルの名前で、発案者はスペシャルズのリーダー、ジェリー・ダマーズ。白黒の市松模様に込められた想いは、黒人と白人の調和。まさしくスペシャルズは白人黒人混成バンドだった。そのダマーズがスペシャルズ解散後に結成したのが、スペシャルAKA。アルバムは一枚しか残さなかったが、それが本当に素晴らしい。スペシャルズがモノトーンなら、こちらは色付き。バンド最大のヒット・チューン「Free Nelson Mandela」(‘84)は、20年以上の獄中生活を強いられていた反アパルトヘイトの闘志、後に黒人初の南アフリカ大統領となるネルソン・マンデラの解放を訴える内容。しかも軽やかに踊り/踊らせながら。腰と頭、そして心に効くダンス・ミュージック。
初期パンクのメドレーで、すっかりゆるんだ頭のまま大泉学園から練馬へ。この街は少しだけ土地勘、というか呑み屋勘が働く。新店開拓の意気込みは、ゆるんだ頭ではキープ出来ず、御無沙汰しているあの店この店を思い浮かべつつフラフラと。こういう時の脳内BGMは軽やかな方がいいので、初期パンクからレゲエ、スカ、UKソウルへ。軽い足取りで久々に訪れたのは中華/上海料理の「H」。此方は三席のみ。椅子はあるけど壁はなく、ほぼ屋台。日本語堪能なママさんとのんびり話しながら、お手製の料理を肴にちびちびと。楽しい時が過ぎ、さあそろそろ御会計となったタイミングで気付いてしまった。あれ、トートバッグ、どこ?
【 Free Nelson Mandela/ The Special AKA 】
三.アン・ルイス
だから呑む時には「バッグは一つまで/しかもショルダー限定」と決めているのに、野暮用があったのでトートを持ってきちまったのが運の尽き。一応、呑んだ店を遡って電話し始めると、直近の大泉学園「Y」でヒット。無事保護しているとのこと。かくして「また必ず」という約束は不本意ながら守られた。
帰りの道すがら、せっかくだからと散策していると、中からシーナ&ロケッツが漏れている店、立飲み「T」を発見。無論即入店。明るいママさんは昔、新宿のディスコ「ツバキハウス」のイベント「ロンドンナイト」で遊んでいたとのこと。なるほど、納得のシナロケ。その後、常連らしき近所の奥様方と呑み屋の情報交換をしている間も、BGMはガールズ・ロック中心。帰り際、トートをしっかり持って「また必ず」と約束を。
ガールズ・ロックの文脈でも語れるが、アン・ルイスは個人的に歌謡ロック。無論、褒め言葉。人気曲「六本木心中」(’84)ほどギラついていない「ラ・セゾン」(’82)辺りが好み。作詞が引退後の三浦百恵、作曲がジュリーという嘘みたいなこの曲は、そのエピソードに頼る必要のない出来栄え。アイドル時代のヒット曲「グッド・バイ・マイ・ラブ」(’74)や、山下達郎&吉田美奈子による「恋のブギ・ウギ・トレイン」(’79)など、ジュリー並みの振り幅の大きさは本当に魅力的。
【ラ・セゾン / アン・ルイス】
寅間心閑
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