一.ラヴ・タンバリンズ
こちらでも何度か紹介をさせて頂いた居酒屋のマスターが倒れた。転倒の方ではなく病気の方。悪い報せは大抵不意に届く。真夜中の電話は、ベルを聞きながら嫌な想像ができるだけマシかもしれない。午前中のメールは正真正銘の不意打ちだ。開くまで嫌な想像はおろか、悪い予感すらない。どうしたのかな、と開いてみると「○○さんが倒れて入院しているようです」。続報は「容態は良くないようです」。
彼とはもう三十年以上の付き合いになる。十歳年上の彼のお陰で、私はどうにか道を踏み外すことができた。普段はジジイ呼ばわりしているが数少ない恩人だ。でもアタフタしなかったのは、少し前に似たような経験をしているから。父親の場合は、朝方の電話で亡くなっていることがほぼ確定した。じゃあアタフタしても仕方ないな、と妙に落ち着いたあの感じが蘇る。結局動いたのは仕事を終えてから。事情を知る人に会って詳細を聞いた。ICUで人工呼吸器が外せず肺炎も併発。そんな状態から数週間、彼は少しずつ回復している。もちろん店はまだ再開できないが、一安心。その安堵した気持ちのまま、小学校からの悪友と昼から呑み始めてしまったのが運のツキ。先日、久々にやり過ぎた。
元々長丁場になると思っていたので、お互い持ち物は最低限のモノだけと決める有様。スタートは阿佐ヶ谷の駅前で腰掛けながら缶ビール。「釣りしながら呑む?」「いいねえ。でもあの釣り堀、練り餌だから手臭くなるな」「じゃあ次回にするか」。諸々用心しながらのスロースタートだったが、やはり段々と加速。数軒巡った挙句、起こされたのは居酒屋のカウンター。すいません、と謝って気付けばヤツの姿がない。あるのはスマホのみ。店員に事情を聞けば「お金を下ろしてくると外に出ました、結構前に……」。多分戻らないのでは、という御言葉に従い、支払いを済ませ、スマホは預かってもらうことに。あと出来ることは、ヤツが寄りそうな店にスマホの保管先を知らせることくらい。それが済んでも、まだ七時前。だったらと呑み直し、運良く届いたお誘いの声にホイホイ乗っかり場所移動。最後は近所のバーで「これしかないんだけど」と残額を示して、ギリギリ呑ませてもらう始末。所々記憶は飛んでいるが、まあ上出来。昔のような呑み方をした割にはぶっ壊れなかった。途中姿を消した悪友からは、翌日昼にメッセージ到着。どうやら朝まで呑んでいた様子。あんたも好きねえ、と笑うしかない。
無事生還を果たした恩人から、色々と手ほどきを受けつつ夜遊びをし始めたのは高校の頃。金はないけど、どうにかこうにか身の丈に合う店を見つけて楽しくやっていた。世間的には「渋谷系」の勢いが強かったが、特にのめり込む程ではなく。旬の音楽よりも、そこから紹介されるルーツ・ミュージック、または元ネタの方を追いかけていた。バイトを始めても相変わらず金はない。当時ストロング系チューハイがあったら、間違いなく手を出して何度もぶっ壊れていたはず。
そんな折、レコード屋で耳にした曲に一発で心と耳を奪われる。生々しく乾いたギターの音、スローテンポながら串に訴えかけてくるリズム、そして何より扇動的な歌声。てっきりレア・グルーヴの名曲だろうと思っていたら発売したての新曲だという。タイトルは「Midnight Parade」 (‘94)。演奏はラヴ・タンバリンズ。渋谷系の重要バンドという認識だったが、そんなことを忘れさせる格好良さ。深夜にヘロヘロで次を目指す時の脳内BGMは、長らくこれだった。特にELLIEの歌声は凄まじく、後年、あの筒美京平からお声がかかっていたと知って納得。素敵なクセ/アクがある。今聴いても感触は変わらない。思い出の曲、なんてノスタルジーを吹き飛ばす興奮が詰まっている。
【 Midnight Parade / Love Tambourines 】
二.ウルトラヴォックス!
先週、仕事の帰りに立ち寄ってみたのは久々の店。新宿の立呑み「O」。数年前、よく訪れて夕方前から呑んでいた。当時のお目当ては「レバ刺し」。そろそろアウトというギリギリまで頼めたのが懐かしい。ただその頃のスタッフは現在、ひとりもいない。別の店といえば別の店だが、そうだとしても好みの店。焼きたての串モノと、出来たての揚げ物でチューハイを呑む。こんな当たり前が嬉しい店は、案外貴重だったりする。
名前は変わらないけど音楽性が変わる、否、変わりすぎるバンドは結構ある。進化というより変化。主要メンバーが抜けたり、半端にセールスを意識した結果、など要因は様々だ。個人的にすぐ思い浮かぶのはウルトラヴォックス!。ファースト『ウルトラヴォックス!』(’77)とセカンド『HA! HA! HA!』(’77)で聴ける、クール/無表情な部分と、ノイジーな攻撃性のバランスは正に発明。ただ名盤とされる三枚目『システム・オブ・ロマンス』(’78)からはニューロマでエレポップ。後進への影響の大きさは認めざるを得ないが、出来れば別バンドと考えたい。末尾の「!」もなくなるし。
【 Young Savage / Ultravox! 】
三.詩人の血
最後に最近嬉しかったことを御報告。書店がルーツでハンバーガーが有名な「V」。店の前を通りかかると「ハッピーアワー」のお知らせが。ヒューガルデンの生が200円。久々に二度見をした。三度でも足りないくらいの衝撃。名物のハンバーガーが2000円近く、という不安材料はあるが入店。恐る恐る尋ねると、ドリンクだけでも無問題とのこと。何杯でも呑めるほど好きなものが安価。遠慮がちに見積もっても、これは「奇跡」と呼んで差し支えないかと。
何度聴いても飽きないどころか、初めて聴いた時の感動を味わえる曲がある。これも「奇跡」で無問題。ただ厳密には全く同じではなく、少しずつ減退していくはずなので、何となく無闇矢鱈と聴かないようにしている。そんな中でも強度抜群の一曲を。バンド名は、詩人の血。解散後、主要メンバーで結成したユニット、オー!ペネロープも好みだったけど、この一曲は格別。
【春のまま / 詩人の血】
寅間心閑
■ ラヴ・タンバリンズのCD ■
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