寅間心閑(とらま しんかん)さんの連載小説『助平(すけべい)ども』『四十七、うなぎ』をアップしましたぁ。妹の冴子から電話がかかってきて、主人公は恋人のナオにうながされて安太のアパートに向かいます。正念場が近づいてますねぇ(笑)。
ごめん、と店の外に出た。さすがに泣きはしないので、俺も安太の名前は出さないが、だからこそ話は終わらない。「本当に一人なの?」「カノジョと飯食ってんだよ」を繰り返し、「私のこと怒ってんでしょ」「心当たりがあるのか?」を繰り返し、「ちょっと会わないか」「失踪中なんだから放っといてよ」を繰り返し、最後はあいつから切った。何だよ、と怒るつもりはない。大丈夫かな、と心配なだけだ。安太を恨むつもりもない。今でも一緒に3Pしたいと思っている。
店に戻るとナオはうな重に手をつけてなかった。食べてればいいのに、という資格は俺にない。ごめん、と小さく謝って蓋を開ける。もちろん旨そうだ。でも冷えてしまっている。さっき運ばれてきた時に食べた方が百倍旨かったはずだ。
同様に冷えきったお吸い物を飲みながら「おいしいでしょう?」とナオは寂しそうに笑った。うん、と言ったが温かい方がもっと良かった。ナオの両親の卒婚延期の祝いの席、せっかくの御馳走を台無しにしたのは俺だ。冴子でも安太でもない。
寅間心閑『助平(すけべい)ども』
こういった記述は小説ならではのものです。ご飯を絡ませると楽しい、悲しい、もの悲しいといった人間感情を表現しやすくなるところがあります。それまでの展開やこれからの展開の漠然とした暗示としても効果的ですね。小説は細部のリアリズムによって支えられているのです。
■ 寅間心閑 連載小説『助平(すけべい)ども』『四十七、うなぎ』縦書版 ■
■ 寅間心閑 連載小説『助平(すけべい)ども』『四十七、うなぎ』横書版 ■
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