第8回金魚屋新人賞受賞の松岡里奈さんの小説『スーパーヒーローズ』第09回をアップしましたぁ。アメリカ留学篇です。なぜ主人公のフミはアメリカに留学しようと思ったのか。美しい男たちがいるからですね。とりあえずの答えとして(笑)。
キャンパスで一年生と思しき初々しい男の子が目を引いた。中学の時に好きだった岡野に似ていた。私は美術品を鑑賞するように彼を見つめた。彼は私の視線に気がつくと、一瞬目を丸くした後、慌てて視線をそらした。彼は気にしないように努めていたが、その後も何度もこちらに視線を向ける。
あの時触れられないと思っていた美術館の展示品たちの正体は、実際は呆れるほど人間らしかった。美しくなった私はもはや透明ではなく、昔のように男の子を遠慮なく観察することは叶わないのだった。
彼は特別美男子というわけではなかった。日に焼けた横顔、喋り方、歩き方、どれをとっても特別なものは見出せない。しかし彼は私が若かった時に、いくら手を伸ばしても届かなかった展示品だった。私は彼が羨ましかった。あの若さが、平凡さが、ありふれた希望が、彼の平凡な悩み、彼の平凡な恋愛が羨ましかった。
彼が自分の持つ若さと凡庸さの価値に気付く日は来るのだろうかと思った。来ないかもしれない。一生。自分の美しさを特別に意識しない、しなくて済む、その態度の何と贅沢なことか。
松岡里奈『スーパーヒーローズ』
フミという女性の内面は老いています。必要以上に成熟している。絶望を抱えるほど知り尽くしてしまった女性だとも言えます。彼女は美しいものに憧れる。アメリカであるのは、それが海を渡った遠い場所にあるからでしょうね。
小説にはウォールマートで手当たり次第に買い物をしたという記述もあります。フミは蕩尽します。美を、彼女の理想を蕩尽する。それが本当の美であれば、彼女はアメリカに留まれる。居場所を見つけられる。残酷な旅の始まりです。
■ 松岡里奈 連載小説『スーパーヒーローズ』(第09回)縦書版 ■
■ 松岡里奈 連載小説『スーパーヒーローズ』(第09回)横書版 ■
■ 金魚屋の本 ■
■ 金魚屋 BOOK Café ■
■ 金魚屋 BOOK SHOP ■