一.RCサクセション
ヨソはヨソ、ウチはウチ。シンプルで大事な教え。特にみんなイライラしているこんな時期は、毎日ちゃんと噛み締めないと。ようやく買い占めなくなってきたと思えば、今度は警察ごっこ。本当、人間って野蛮だ。
今のところ逃げ場はない。宇宙、地中、海底辺りなら脈アリだけど、速攻で苦しくなりそうだし。やっぱり家の中かしらん。勿論たまには気を抜いて。先日、私も長めの散歩をしました。途中、給水所にも寄りました。時節柄、夜八時閉店を守りつつ、昼営業したり/テイクアウトを始めたり……と、どこも頑張っている。
最初の給水所は高円寺の立ち飲み「K」……のはずがアレ? 開いてない。店内を覗くと、もう少しで開けるとのこと。この程度は想定内。では、と向かったのは近くの立ち飲み「C」。トイレにパンクのディスクガイド『パンク天国』を揃えている、きっと唯一の立ち飲み屋。看板にはテイクアウト用の御品書きが貼ってあった。しかもドリンクメニュー。肴だけじゃないのか、と驚くのは早い。レモンサワーもクエン酸サワーも無糖コーヒー割りも200円。素晴らしい。先客は二名。ちゃんとソーシャルディスタンスを守りつつ、チューハイを注文。カウンターに鉄板が敷かれた此方は、勿論お好み焼きが食べられる。けれど次もあるので軽めに「ニラだれ黄身納豆」を。嗚呼、旨い。暗めの店内でテレビを眺める。店内が静かなのは時勢柄ではなく、全員一人客だから。開け放しのドアの向こうは真っ昼間。通りがかる人たちが時々中を覗いていく。
RCサクセション(以下RC)は上の世代のバンドだった。当時の感覚で言えば「昔の音楽」。好きではなかった。どうせ昔の、という無知ならではの乱暴な不遜さがあった。音楽以上の何かを求め、音楽を聴き始めた頃の話。当時の自分にかける言葉はない。まあ、スタートラインとしては正しい。でもスタートしたらすぐ矯正しないと手遅れになる。そんなRCに興味を持つきっかけは、昨年惜しくも亡くなられた音楽ジャーナリスト、長谷川博一氏の著作『ミスターアウトサイド』。ソングライターへのインタビュー集であり、音楽への接し方を教えてくれた大切な一冊だ。その中にRCのヴォーカリスト・忌野清志郎の名前もあった。長谷川氏は『カバーズ』(‘88)以前のRCのテーマを「セックス」に「警察へのからかい」とまとめた。異論ナシ。でもそれだけではない。彼の知識と想像力を駆使したインタビューにより、RCの音楽に興味が湧き、最新アルバム『ベイビー・ア・ゴーゴー』(‘90)を聴いた。全て気に入った訳ではないが、素敵な曲と出会えた。最近その曲をよく思い出す。歌い出しの歌詞が素晴らしい。おとなだろ/勇気をだせよ。本当にそう思う。
【空がまた暗くなる / 忌野清志郎 & ニーサンズ】
二.ピチカート・ファイヴ
大人になりましょう、とサビで繰り返し囁きかけてくるのは、ピチカート・ファイヴのその名も「大人になりましょう」。初めて野宮真貴をヴォーカルに迎えた名盤『女性上位時代』(‘91)に収録されている。中心人物・小西康陽の美意識と企みに溢れたこのアルバムは、ブレイク直前の作品でありそれだけに濃密だ。聴き終えた人はみんな、野宮真貴に恋をするだろう。
遡ること二ヶ月前に発売された、フリッパーズ・ギターのラストアルバム『ドクター・ヘッズ・ワールド・タワー―ヘッド博士の世界塔―』(’91)と同様、アイデアと音源の引用=サンプリングに圧倒され、ちょっとやそっとじゃ抜けられない音楽の魅力に触れてしまった瞬間。無論未だに彷徨中。
チューハイ二杯で「C」を出て、第一給水地の「K」へと戻る。此方も看板には、「おうちで立呑み」と題したテイクアウト用のメニューが。おつまみセット三種とお弁当三種、全品五百円。素晴らしい。広い店内なので先客の数は「C」より多いが、基本的にソーシャルディスタンス。カウンターに立つと自動的に赤星がドン。有難い。気付けば通い始めて結構経つ。今は無き荻窪の支店の記憶とタコぶつを肴に。献立は百円台からズラリ。立飲みチェーン店「B」出身らしく、庶民に優し過ぎる価格帯。但し此方、店名でネット検索をすると「接客」「ルール」という単語が候補ワードに出る。まあ分からなくもない。無骨/ぶっきらぼうな応対は好みが分かれるところ。個人的にはウエルカム。何故ならどの客に対してもそうだから。平等万歳。表向き丁寧でも、客を見る店は居心地が悪い。あと此方に細かなルールはない。タイミングよく注文して、取りやすい場所にお金を置いておけばいい。指示があれば都度従うだけ。大人になりましょう。久々ということもあり、少し給水し過ぎたみたい。外に出るとまだ真っ昼間。早く事態が収束しますように。
【大人になりましょう / ピチカート・ファイヴ】
三.トニー・ベネット
帰る道すがら、予想外の給水所を発見。下北沢の居酒屋「E」。年中焼鳥半額の此方も開店時間を早めていた。暖簾をくぐると「炭に火を入れてるから、あと十五分」とのこと。勿論想定内。付近をぐるりと一周して入店。ずいぶん久々だ。金土日限定のタン串を肴にチューハイを。先客はテーブル席一組。最近話題のあのニュースに関して議論中。「コロナで大変な時に何をコソコソやってんのよ」「まあ、次の選挙で痛い目みるだろ」「他にいいトコあるか?」「……もう一杯呑んで考えよう」。見知らぬ論客に同意しつつ、私もチューハイをもう一杯。呑んだらゴー・ホーム、そしてステイ・ホーム。
ステイしていると身体が鈍る。なので気付いた時に軽めの運動を。そんな時に聴きたいのはリラックスした音楽。最近のお気に入りは、数年前八十五歳でレディー・ガガと共演し話題になった、大御所トニー・ベネットのグラミー賞受賞作『MTV アンプラグド』(’94)。この時既に六十八歳だが、年齢を感じさせない豊かな声に吃驚。そして緩急のつけ方が抜群。ここぞという時にバシッと決める、そんな大人になりましょう。
【Old Devil Moon / Tony Bennett】
寅間心閑
■ RCサクセションのCD ■
■ ピチカート・ファイヴのCD ■
■ トニー・ベネットのCD ■
■ 金魚屋の本 ■