大野露井さんの連載小説『新故郷』(第15回 最終回)をアップしましたぁ。最初に文学金魚新人賞を受賞した小説『故郷-エル・ポアル-』があり、次に『故郷-エル・ポアル-』の注釈、そして今回の小説『新故郷』です。〝エル・ポアル〟は作家自身による注釈を間に挟んだ2つの作品から構成されます。今回で最終回です。
カルメンがどう思うかは、もはやどうでもいいことだ。むしろ、実際にエル・ポアルを車で走り抜けることには、あまり意味がなさそうだった。それはすでに僕のなかにある村、僕のなかにしかない村だったからだ。その村でなら、僕は何でもできる。夜半、そっと村に戻り、頂点をアーチ型に整えた厚い木戸を慎重に開き、石の階段を登る。昼間でも暗く、夜には怖くてたまらない一階を、電灯も点けずにすり抜けた自分の勇敢さに惚れ惚れする間もなく、音もなく寝床にもぐり込む。すぐに夢の続きを見る。遠い国で成功し、妻と子供を、血と言葉の溶け合った子供を……。
(大野露井『新故郷』)
小説は最後まで読まないと出来不出来を判断できない言語芸術です。物語の落とし所が非常に重要になるのです。『新故郷』の終わりは『すぐに夢の続きを見る。遠い国で成功し、妻と子供を、血と言葉の溶け合った子供を……。』ですから、父親の生まれ故郷エル・ポアルを非在の村として突き放し、実際に生活の拠点のある日本で功成り名を遂げることを夢見ている主人公の姿で終わる、と言っていいでしょうね。
小説としてはアリの終わり方です。故郷が外国だろうと日本の片田舎だろうと都会っ子だろうと、たいていの作家の卵がそんな夢を見る。そこからが始まりでしょうね。そして始まってしまえば文学の世界での成功など、なんのことやらになってしまいます。本を出版しても大した反響がないのは普通です。たまさか賞などを受賞しても、半年一年先には別の誰かが賞を受賞するわけで短期評価でしかありません。成功とは何かを考えさせられ、それにとらわれなくなるところから作家の本当の歩みが始まるのです。でないと書き続けられない。経済面も含めてコンスタントに書き続けられれば作家の一応の成功と言っていいわけですが、まず書き続けることが絶対条件になります。
■ 大野露井 連載小説『新故郷』(第15回 最終回)縦書版 ■
■ 大野露井 連載小説『新故郷』(第15回 最終回)横書版 ■
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