一.ロバート・ジョンソン
数ヶ月前から割と使っているのが電マ。そう、電子マネー。割合新しいモノ好きだけど、電マに関してはフットワークが重かった。支払う際にはちゃんと紙幣やコインを触りたい。ソレガシ、案外そういうタイプだったらしい。それでもトライしたのはキャッシュバック・キャンペーンがあったから。そういうタイプであることは分かっていた。
よく使う場所は薬局やコンビニ。まあ、何というか、ええ、アルコール類が少々多くなりますかねえ、ええ。近頃じゃ缶のクラフトビールまで売ってるし。あの青い龍のヤツ、300円なのにシトラスの苦味が絶妙。畢竟「軽く一杯」のチャンスが増えた。
煙の真似するつもりはないが、ちょっと高いところでプシュッと一献したくなる。肴はリーズナブルで持ちやすい物が……あった。レジ前で売っている所謂ホットスナック。種類豊富でリーズナブル。コロッケもアメリカンドッグも小さい方のワンコインで事足りる。あ、これも電マでいけるのか。
高いところ、といって浮かぶのは陸橋。これなら案外見つけやすい。行き来する車の流れを見ながらプシュッと。アメリカンドッグを頬張りながら耳にイヤホンをイン。こういうイベント性皆無のチープな外呑みにぴったりなのが戦前ブルース。ボリュームはやや抑え気味。基本弾き語りなので、外の環境音と混じって丁度いい塩梅に。最近のお気に入りはロバート・ジョンソン。その名も『キング・オブ・ザ・デルタ・ブルース・シンガーズ』(’61)。録音されたのは1930年代半ば。現存する楽曲は29曲/42テイクながら、後世のミュージシャン、そして音楽そのものに多大な影響を与えた夭折のブルースマン。享年二十七歳。
誤解を恐れず言えば、ブルース、特に戦前ブルースは似たり寄ったり。だから苦手だった。今もあまり得意ではない。ただ似たり寄ったりを支えるのは、スリーコードという様式。沖縄音階とスリーコードを「偉大な発明」と呼んだのは桑田佳祐だっただろうか。偉大な発明は似たり寄ったりしても大衆の支持を得る。飽きられるより先に必要不可欠になってしまう。
更に誤解を恐れず言えば、ロバート・ジョンソンは聴きやすい。高めの声にメリハリのあるギタープレイ。その流れに乗るからテンポや歌の崩しが格好いい。
一番有名な戦前ブルースマンである彼には様々な逸話/風評がついて回る。悪魔に魂を売り渡して名声を得た、とにかく女好き、手を出した女の子夫に毒殺された等々。そんなイメージもあり、どことなくチンピラ臭が漂うところもクール。
【Terraplane Blues / Robert Johnson】
二.スロッビング・グリッスル
男性器のスラングをグループ名にしたスロッビング・グリッスル(以下TG)。最初はパフォーマンス・アート集団で、その後の作品も一般的な音楽とは一線を画す。所謂インダストリアルミュージック。ヌードモデルのコージーを含む彼/彼女たちこそ、その元祖だ。
味わうのは音そのものより、逸話/風評も含んだメッセージ。TGは「情報戦争」を仕掛けていた。庶民向けの安売りスーパーを「死の工場」と呼び、ジャケットに用いる写真は児童ポルノや自殺の名所。国から援助を受けた展覧会では使用済みの生理用品を展示して物議を醸し、歌詞のモチーフには火傷を負った女性に関する看護師の手紙――。反体制、という大きな動機は理解しつつも、その「悪趣味」は大きな魅力。聴きやすいのは『20ジャズ・ファンク・グレイツ』(’79)だが、もちろん毒入り。ちなみに中心メンバーのオリッジは、TGの活動終了後に新興宗教団体を結成し国外退去処分に。現在は妻の容姿に近付く為の性転換手術を繰り返している。いつまで経っても味わい深いと感心。
逸話/風評が好きなのは人の常。でも個人的には「人それぞれ」と思っている。特に呑み屋のソレはね。
例えば恵比寿の立ち飲みモツ焼き「N」。愛想がないとか、常連贔屓とか言われつつ、味は絶品とか最強とか。賛否両論って気になっちゃう。で、行ってみたのが二年前。結果は何の問題もナシ。正確に記すなら、優しかった。串モノだと思って注文したメニューがステーキだった時、当該肉を示して「どうしましょう?」と確認。これ、一人で呑んでると超有難い。大きさ確認ナシの店、結構多い。此方は肝心の味はもちろん、雰囲気も最高。蛍光灯の強い明かりのもと、猫背でカウンターに立ち、旨いモツ焼きで呑む。逸話/風評も面白いけど、本当はこれで充分。
【Hamburger Lady / Throbbing Gristle】
三.町田康
ちょっと前まで暗い方が好きだった。呑む時の照明の話。いや、今でも嫌いじゃないけど、ここ最近明るい店で呑むのが嬉しい。人が見える、というか、隠れようがない、というか。剥き出しで呑んでいる感じが、開き直っているようにも見えてクール。
神泉にある「M」は元コンビニで立ち食い蕎麦屋兼立ち飲み屋。そしてスナックや酒や煙草はコンビニの時のまま、というミクスチャー店。当然照明も明るい。真ん中に置かれたカウンターで大瓶を呑んでいると、キックボードに乗ったお子様が入店。どうやら家族経営らしい。やはり明るいと色々見えて面白い。
町蔵時代の名盤、INU『メシ喰うな』(’81)から、最近のバンド・汝、我が民に非ズに至るまで、町田康の音楽はいつも堂々としている。明るみの下、手足を広げて微動だにしない、剥き出しの怖さがある。時折りニヤニヤする不気味さもある。仕掛けがあるならば、言葉よりも声。閃きある言葉を振り回す声が背骨になっている。
パンク歌手なので逸話/風評もあるけれど、それを作品で回収/凌駕するところが真骨頂。関連作品はどれも堂々としていて素晴らしいが、一枚のアルバムとして完成度が高いのは町田町蔵+北澤組『腹ふり』(’92)。八十分弱をダレることなく楽しめる。
【イスラエル / 町田町蔵+北澤組】
寅間心閑
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■ 金魚屋の本 ■