大篠夏彦さんの文芸誌時評『文芸5誌』『文學界 2017年07月、08月号』をアップしましたぁ。『村上春樹「三つの短い話」(07月号)』、『杉本裕孝「将来の夢」(08月号)』を取り上げておられます。大篠さんは春樹小説について、
春樹さんの小説の軸になるのは男女関係である。しっかりとした自我を持っており、しかも絶望した女たちが登場する。絶望した女が自傷の入り交じった気持ちで好きな男以外とセックスするなら、その男はどうでもいい男で、かつ彼女を奈落の底に落ちるのを引き留める繊細な心――つまり女の心を読む力がある男なのが理想的だ。そういう男が春樹小説には登場する。春樹小説の主人公は、まあ言ってみればモテモテでいろんな女とセックスするが、その行為はどこか空しい。セックスは女の心の空虚、時には主人公の空虚を埋めるだけで本質的に男女関係を深めることがない。
たいていの女性読者は過激なセックスシーン、特に男性作家の描く肉欲的なシーンを嫌う。しかし自傷行為でかつ繊細な男が相手なら、セックスは過激な方がいい。セックスにおいて人間の本源的な空虚を描いていることが、春樹さんが多くの女性読者を惹き付けている理由である。愛し合っている同士でも、思いが届かなくてもこの空虚は存在する。それを先取りして俯瞰できるのが青春時代だとも言える。出会いがあり、振り返ってみれば別れている。春樹作品の男性主人公は女性的な心を持っている傍観者である。
(大篠夏彦)
と批評しておられます。小説ではセックスシーンは意外と書きにくいものです。なんやかんや言ってセックスは読者の記憶に残ってしまうんですね。金魚屋刊の原里実著『佐藤くん、大好き』の寅間心閑、大野露井、青山YURI子さんの討議『『佐藤くん、大好き』出版記念討議 フツーの恋愛小説か、新たな〝純〟文学か』でも、ほぼ純な恋愛小説である『佐藤くん、大好き』に出て来る〝SEX〟という単語が話題になりました。『佐藤くん、大好き』にはセックスシーンが一箇所しかない。それが小説を読み解くキーになったりするわけです。
ただセックスシーンは読者の記憶に強く残る割には文学的要素として活用しにくい。大篠さんが村上春樹小説に指摘しているセックスシーンは、小説における一つの典型的な文学的活用です。セックス自体はそれほど重要な意味がない。それをどう登場人物の人間関係に活かしてゆけるかどうかが作家にとっての問題です。
■ 大篠夏彦 文芸誌時評『文芸5誌』『No.129 村上春樹「三つの短い話」(文學界 2018年07月号)』■
■ 大篠夏彦 文芸誌時評『文芸5誌』『No.130 杉本裕孝「将来の夢」(文學界 2018年08月号)』■
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