イ・サン
NHK総合 23:00~
韓国ドラマである。あの『宮廷女官 チャングムの誓い』を彷彿とさせると思いきや、同じくイ・ビョンフン監督の最新作とのこと。宮中ものってのは、やっぱり何となく見てしまう。
権力というものが目に見える形になっているというのは、どうしたってドラマチックだ。つまりドラマチックというのは、昇り下りが激しいもの、できればジェットコースター状態であるもののことを言うわけだ。
人の一生をきゅっと圧縮すると、山あり谷ありが激しくなり、また山はますます高く、谷もますます深くなる。ドラマチックかどうか、というのは、この圧縮の圧力のかかり方によるのだと思える。権力という「力」がこの圧力になる。
18世紀後期の朝鮮王朝第22代王、正祖(チョンジョ)、名はイ・サンの物語。イ・サン役はイ・ソジン。知的で優しげな感じが育ちがよさそうで、王様っぽい。
しかし韓国歴史ドラマを見ていて、いつも思うのだが「王さま、王さま」と呼ばわるのは、何とかならないもんか。なんか王さまゲームみたいで深刻さに欠けるよね。陛下、とかじゃいけないんだろうか。国王陛下って、ヘン? 日本で陛下と呼ばれるべきは、天皇陛下だけってことかもしれないけど。昔の洋画の字幕とかって、どうなってたっけ。
イ・サンは実在の王で、幾度もの暗殺の危機を乗り越えたそうで、宮中での陰謀と暗殺ってのは、あのチャングムと同じ。あのチャングム、ってのは文字通り、銭湯がガラ空きになったというか、早く帰ってチャングム見ねば、と一人暮らしの婆さんたちが合言葉にしていたという大ヒット作。
イ・サンも見ているとなかなか面白いんだけど、あのチャングムの息もつかせぬ緊迫感はどこからきたものだったろう、と作劇法みたいなものを考えてしまう。
まず、あのチャングムは毎週のように殺されかかり、翌週は何事もなかったかのようにケロッとして出てくる。この繰り返し。王様だと、さすがにこうはいかない。次にチャングムでは宮廷料理の奥義がわんさか出てきて、いたく興味深い。イ・サンの恋人ソンヨンは宮廷画家であって、絵というのは料理ほどには宮廷の、わたしたちの生活にも密着してないし、暗殺の陰謀に結びつく直接性もない。
だけど何より、あの可愛らしいチャングムはある密やかな目的を持って宮中にいた。母の親友を探し出し、親の無念を晴らす復讐劇でもあるのだ。権力と対峙し、それに迫ろうとするチャングムは否が応でもドラマチックになる。イ・サンの側室 ( ! ) になるとかならないとか、結局なるらしいソンヨンの純愛 ( !? ) とは構造からして違う。むしろソンヨンを側室に、と薦めるヒョイ王妃の、権力に寄り添う女性の特別な愛情のあり様の方が印象深い。
これからの展開として期待すべきは、偉大な王であったというイ・サンが、ドラマの上でも権力そのものとして、熾烈に残酷に、謎めいた存在に変貌してゆくことだろう。
山際恭子
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■