ほんとにあった怖い話 夏の特別編 2012
フジテレビ
2012年8月18日 (土) 21:00~23:10
すでに13周年ということで、キャストがなかなか豪華というか、旬の人たちを中心に集めてある。第一話から五話まで順に、山下智久、剛力彩芽、岡田将生、スギちゃん、香里奈が主演。
ほんとにあった、かどうかはともかくとして、ドラマとしては剛力彩芽の主演する第二話「呪われた病室」がホラーらしい王道を踏んでいたようだ。
その病室の患者は必ず急死する、と言われる病室 (ほんとにそうなら訴訟もんだが) に幼い男の子が入り、子供を守ろうとするナース (剛力彩芽) が奮闘するという話。なぜか病人は病室の天井ばかりに目を向けるが、どうやら黒い染みのような “死の影” が見えているらしい。
最後に黒い染みがじっとりと降りて来て、化け物の姿となり、男の子をさらおうとするところは、子供を怯えさせるには、まあ十分な映像ではあった。
得体の知れないものに子供が命を奪われる、というのは、シューベルトの「魔王」にヘンリー・ジェームズの『ねじの回転』と、ホラーの古典ではあるわけだし。
で、大人がぞっとする場面があった、というのが、よくできたところだった。まさしく『ねじの回転』的なものだが、真夜中の病室の見回りで、剛力彩芽のナースが眠っている子供の脇のスケッチ帳を取り、その眼に映っているものを初めて目にする、というシーンだ。
もっともスケッチ帳には黒い染みがだんだん大きくなっていく様子が描かれているのみで、そうたいしたものが見せられるわけではない。が、薄暗い病室で子供の寝ている隙に、というスリリングな状況、気づかれていなかった危機が顕在化する瞬間というのは心理的に、かなりくる。
そしてこのスリラーを支えているのは子供の弱々しさであると同時に、剛力彩芽の「細さ」なのだと実感した。ナースの白衣に身を包んだ剛力彩芽は子供を守ろうと頑張るが、その19歳という年代に特有の透明感、危ういか細さで、見る者をはらはらさせる。これ見よがしではない芝居の上手さ、つまりは、そこはかとない知性というのもある。
なにしろヒッチコックがグレース・ケリーを使いたがった理由がわかった気がしたんだから、たいしたものなのだ。今後、国内のブスは「剛力彩芽にちょっと似てる」とか「剛力彩芽ちゃんふうブスカワ」とか僭称しないように。似ても似つかぬただのブスだから。
このシリーズは、短いドラマからドラマへと、稲垣吾郎が館主の「ほん怖クラブ」がナビゲートするという仕立てだ。ドラマの合間に、子供たちがいちいちワーとかキャーとか言っている。たぶん、子供はスリラーに魅入られるべき存在で、それは子供時代には必須のものなのだ。怖いもの知らずのバカな大人にならないために。
山際恭子
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■