第2回 辻原登奨励小説賞受賞作 寅間心閑(とらま しんかん)さんの新連載小説『再開発騒ぎ』(第01回)をアップしましたぁ。『受賞の言葉』で『実は最終審査候補の中に自分の名前を見つけた際、前年佳作に留まった私は「今年も佳作になれるだろうか」と、どこかで受賞を諦めていました』と書いておられるように、寅間さんの応募は今回で二回目です。もちろん二度目の応募だから辻原登奨励小説賞を受賞したわけではありません。第一回応募作と今回の受賞作を読んで、辻原登さんを筆頭とする選考スタッフが、この作家は書くテーマを持っており書き続けることができると判断したからです。
新人賞を公募している側としてはちょっと言いにくいのですが、新人賞を含むあらゆる文学賞はオリンピック金メダルやサッカーワールドカップの優勝カップのようなものではありません。ほんのささやかな足がかりです。もちろんそれを踏み台にできるかどうかは作家にかかっています。編集者などの裏方スタッフは、ある作家を一瞬スターに押し上げることはできても(それには多大な僥倖が必要でしょうね)、コンスタントに書き続けられる作家に育てることは本質的にできないのです。まず作家が書くテーマを抱えていて書き続けられる力を持っていなければなりません。新人賞をゴールと思いそこで力尽きてしまう作家は意外なほど多いのです。作家の卵さんの多くは書くことに精一杯で商業文芸誌等をほとんどお読みにならないでしょうが、「文學界」、「新潮」、「群像」新人賞でもそれは同じです。
寅間さんは明らかに私小説タイプの作家だと思います。ただ今回の受賞作は、彼の私小説作家としての資質に大衆文学的な要素を付加したものです。そこに寅間さんの作家としての力量を感じます。文学の世界でも十年に一度くらいはシンデレラボーイ、ガールが登場しますが、たいていの場合、それは自分以外の宝くじに当たったような他者です。デビュー作のたった一作で高い評価を得ることはほぼないと言ってよいです。世に出るためには後ろを振り向かずに、次々に作品を書いてゆくのが一番の近道です。また書いてしまった作品は公開してしまった方が次のステップに進めます。多少なりとも注目を浴びることが、寅間さんの私小説作家としての資質をさらに強め高めることになればいいなと思います。
■ 寅間心閑 新連載小説『再開発騒ぎ』(第01回) pdf版 ■
■ 寅間心閑 新連載小説『再開発騒ぎ』(第01回) テキスト版 ■