MOZU
TBS
木曜 21:00~
WOWOW・TBS の共同制作ドラマということだ。日仏合作というほどのインパクトはないが、それなりのボリューム感はある。何よりキャスティングだ。オールスターというわけではなく、ただ、誰にも一人や二人いる贔屓の俳優が含まれているようで、なんとなく観てしまいそうなところが、ちょっとずるい。
私めの贔屓は、真木よう子に石田ゆり子、蒼井優と、女優さんは全部。それに小日向文世。主演の西島秀俊も人気の高い俳優であるようだが、これといった強い個性が売りというより、なんとなくの高い好感度の人たち、という気がする。
このなんとなくの好感度というのは、造り込んだ美しさや狙い澄ましたイメージ戦略といったもののない、ただ微妙な人臭さというか、厚みを感じさせる程度の個性派、と言ったらよいだろうか。厚みのある人柄、というより、人というものが普通、持っている厚み、である。その普通な感じ、なおかつ俳優として洗練された感じを両立させるのは結構難しく、得難いものなのではないか。
たとえば香川照之が、別れた妻とレストランで言い合う場面など、リアルかつリズムがあっていい。つまり脚本も、ドラマとして悪くない。こういう場面にあたると、やはりつい見入るということになる。しかし、そうかといっていわゆる、人間をよく描いたドラマというわけではない。
ドラマの企画としては、なんだか SF っぽいな、という感じがある。原作はハードボイルド小説ということなのだが、さてハードボイルドって何だったっけ、と考えてしまうところがある。定義からすると、感傷に流されない人の生き様を描く、というようなことらしく、少なくともそれとはちょっと違うようだ。
ハードボイルド・ミステリは文学の一ジャンルになり得ていると思うが、それは単なるスタイル(文体、という意味も含めて)だけの問題ではなく、謎を解く過程において、様々な日常的な「物語」が打ち壊され、幻想が排除されてゆく、そのこと自体に価値を見出しているからだと思う。私たちの日常における多くの感傷はたいてい陳腐な「物語」に裏打ちされ、もたらされているに過ぎない。
亡くなった妻に対する主人公のこだわり方、行方不明の父に対する、真木よう子演じる警察官の感情の起伏、どれを取ってもハードボイルドではあり得ないこのドラマは、では何に属するのか。ジャンル分けは重要ではないが、何を主眼としているのかを見分ける助けにはなる。
暴力や流血は、言うまでもなくハードボイルドの本質ではない。むしろそれへの思い入れによって、画像としてそれを描くことが目的となっている。独特の美的な絵である。そこで散見される「組織」、「謎のロシア人」といった設えは空疎であって、しかしこれらの絵を支えるものであるなら、ジャンルとしては SF に他ならない。
山際恭子
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■