ラモーナ・ツァラヌさんの連載エセー『交差する物語』『No.003 ブカレストという時間の渦(下)』をアップしましたぁ。ブカレストはルーマニアの首都ですが、実際に住むのは大変なやうです。ラモーナさんは『ブカレストではどこに行ってもあらゆる物事が動いてほしい速度で動かないのであり、自分の時間が毎日無駄にされているという感じが半端ではない。・・・私も町はまるで、人の血ではなく、人の時間を吸って、それで永らえる巨大な吸血鬼のようであると、度々感じていた』と書いておられます。
ただブカレストはやはり古く、歴史のある町です。ラモーナさんは『ブカレストという町が、まるで話しかけてくるようだった。闇に飲み込まれそうな、素早く移りゆく幽かな街灯りや、道路を走る車の音、通りすがりの人間の声、どこからともなく聞えてくる音楽などで、町は話しかけてくれたのだった。・・・町は聴き手がいることを喜んでいるようだった。そこでいつも私に魔法をかけて、人間の言葉では語れないなにかを耳に囁いてくれた』とも書いておられます。
ラモーナさんはお能の研究者ですが、お能を学問として研究する以前のお話として、お能のような幽玄な芸術がとてもお好きです。その原初体験の一端が、ラモーナさんとブカレストという町との対話(交流)にも表れているでしょうね。連載のタイトルは『交差する物語』ですが、なにかとなにかが交差する時に、ラモーナさんの感性と知性は最も研ぎ澄まされるのかもしれません。
■ ラモーナ・ツァラヌ 連載エセー 『交差する物語』『No.003 ブカレストという時間の渦(下)』 ■