小原眞紀子さんのTVドラマ批評『No.057 山田太一ドラマスペシャル~遠まわりの雨』をアップしましたぁ。2010年3月27日に日本テレビ系列で放送されましたが、つい最近2014年9月7日に再放送されました。小原さんのレジュメでは、『経営不振の小さな町工場に、海外からの発注があった。熟練工の秋川社長(岸谷五朗)は張り切るが、突然、脳卒中で倒れてしまう。妻の桜(夏川結衣)は20年前、会社で働いていた凄腕の職工・福本草平(渡辺謙)を訪ね、手助けを頼む。その昔、桜は草平と恋仲だったが、彼を振って秋川の妻となったのだった。すでに互いに家庭を持つ二人だが、心はどうしようもなく揺れ動く』といふ内容のドラマです。
金魚屋のTVドラマ批評では、以前山田さん脚本の『おやじの背中 第七話』を取り上げましたが、こちらは1時間ドラマ(正味45分くらい)でした。しかし『遠まわりの雨』は約2時間で、山田さんらしい人間の繊細な心の揺れ動きが描かれています。小原さんは『老いらくの恋、今で言う熟年(嫌な言葉だが)の恋物語は、難しいと思う。きれいごとや情熱だけで突っ走るのはリアリティがない』と書いておられますが、まさにそうなのです。工場の大黒柱である社長が倒れ、その妻は昔の恋人に助けを求めますが、そこには打算がある。昔の恋人は妻の打算につけ込むこともできるわけで、妻の方もそれはある程度覚悟している。そこで2人はどうするのか。ささやかですが、人間の本質を試されるような〝選択の時〟が訪れるわけです。
小原さんは、『緊張を孕みながらもゆったりと美しいこのドラマでは、むしろ台詞の間合いに多くの表情が読み取れる(渡辺謙はたしかに名優だと実感した)。「それでは、あんまりだ」と一つの台詞を繰り返しながら昔の女に触れようとしない彼に、「昔の、男の子なんだ」とYOUさんが呟く。その一言に尽きていると思う』と書いておられます。YOUさんの役どころは謎の娼婦です。男の子なら、すれっからしの娼婦のお姉さんに、「昔の、男の子なんだ」と言われてみたいですよね(爆)。山田太一先生、浅草生まれの昔ながらのダンディであります。
■ 小原眞紀子 TVドラマ批評『No.057 山田太一ドラマスペシャル~遠まわりの雨』 ■