一.ジェロ・ビアフラ

建築中の家もなければ、車も日常的に使わないので、多分乗り遅れ気味だろうけど徐々に感じるナフサ・ショック。足音は日増しにデカくなる。先日幼馴染みの美容師も、ゴム手袋が入りづらくなったと嘆いていた。それだけではない。カラー材、パーマ液、シャンプー類なども同様らしい。内容物もさることながら問題は容器。何も買えない訳ではないけれど、発注通りには届かない。ビニール袋等も含め、現在なかなか厳しい状況とのこと。アイツのせいだよなあ、と缶チューハイ片手に幼馴染みは言う。だよなあ、と応じつつ頭に浮かべているのはアイツの顔。それ以来、考えていることがある。今、デッド・ケネディーズ(以下DK’s)が活動していたら果たしてどんな曲を奏でるだろうか?
実のところDK’sは現在存続している。但し最重要人物のジェロ・ビアフラ抜き。彼は印税を巡り他のメンバーと争った結果敗訴。きっとDK’sに戻ることはないだろう。そして数ヶ月前、脳卒中で病院に搬送され現在リハビリ中。そんなこともあり、どんな曲だろうと考えていた。ピストルズでもクラッシュでもクラスでもなくDK’sなら? と。「Kill The Poor」「California ?ber Alles」と曲名からも察せられるとおり、彼の言葉は挑発的かつ露悪的、しかも知性に裏付けられている。つまり感じが悪い。そしてサンフランシスコ市長選に立候補をする政治活動家でもある。
先日もそんなことツラツラ考えながら中野界隈を歩いていて、思わず「おっ」と声が出た。数年前にも御紹介した蕎麦屋「A」が――、店主が修行に出て以降不定期開店となり、いつしか閉じてしまったあの店が――開いている! 時間は昼過ぎ。そしてこの後予定アリ。どうする? と考える前にひとまず入店して営業時間と休日を尋ねてみた。なるほど、これなら帰りに寄れなくもない。そう思い歩き出して数歩、なぜかポケットからスマホを出して予定を変更していた――。わたしもうぢき駄目になる。
あら、と驚く店主に照れ笑いしながら再度入店し大瓶をオーダー。数年ぶりの程よく薄暗い店内は数人の入り。呑み組と蕎麦組、両方いる。久々なので玉子焼と焼き鳥の王道コンビを頼み、しばし店内の雰囲気を満喫。そして瓶が半分空く頃、ふと思い出したことがひとつ。そうだビアフラ、今バンドやってるじゃん。その名も、Jello Biafra & the Guantanamo School of Medicine。即ち、ジェロ・ビアフラとグアンタナモ医学校(部?)。グアンタナモはキューバにある米軍収容所。米政府が「テロ容疑者」とみなした人々を正式な裁判なしに数年閉じ込め拷問を行っていた人権侵害施設。それに「医学校」を付けたので、さだめし「米政府公認拷問研究施設」だろうか。ビールを呑みつつスマホで調べると、最新作は第一次トランプ政権の後半にリリースされた3枚目『TEA PARTY REVENGE PORN』(’20)。直訳だと、保守派のリベンジ・ポルノ。そして一曲目のタイトルは「Satan’s Combover」→悪魔のバーコードハゲ。たまらん。もしDK’sなら? という問いの最適解、と密かに盛り上がりつつ久々の玉子焼に舌鼓。と、後ろで呑んでいた客人が「断熱材が届かなくてさ……」。嗚呼、ここにもナフサ・ショック。
【 Satan’s Combover 】
Jello Biafra & The Guantanamo School Of Medicine
二.パーラメント

肝心の蕎麦を食べなかったのは、次回のお楽しみとして、が半分。もう半分はビアフラのあの痙攣した歌声をすぐに聴きたかったから。いや、まだ理由はある。久々の僥倖に恵まれたもので少々欲張りになっちまって、ええ、もう一軒久々のところにね。目指すは野方。だらだら歩けば丁度オープンかなと向かったのは、やきとん「D」。近頃色々重なって美味しいやきとん、食べてなかった。こういう日もあるさ、とテクテク歩いて入店。以前より価格が上がったのもアイツのせい、なんて因縁つけても仕方ない。久々の美味にだらしなく頷き、次のオーダーに頭を悩ますだけでいい。
実はもう一組、今だからこそ表現してほしいバンドがある。それはジョージ・クリントン率いるPファンク軍団の片翼、パーラメント。彼等の3枚目のタイトル『チョコレート・シティ』(’75)は、当時白人の富裕層が都会を捨てて郊外へ移住した結果、人口の八割近くが黒人になった首都ワシントンD.C.の呼称。彼等は冒頭のタイトル曲で人種をチョコ(黒)とバニラ(白)に例えつつ、政府のポストに黒人スターを任命するというお祭り騒ぎを描く。スティーヴィー・ワンダーは芸術長官、ファースト・レディはアレサ・フランクリン! ちなみにクリントン、脳卒中で倒れたビアフラに「あいつの脳と口は、おかしな世界を撃ち抜くためにまだまだ必要」と真っ先にエールを送っている。
【 Chocolate City / Parliament 】
三.ポール・マッカートニー

つい一昨日、昼下がりの大森を散策中にチェーン店立ち飲み「B」の座れる店舗を発見。レアな着席店舗は下北沢以来。そうそう久々の店には幸運が、と迷わず入店。チュウハイ250円で寛いでいると同年代の男女が入店。二人とも一杯目から「お酒、常温で」。頼もしいねえ。けど真似しちゃダメ。グッと堪えてお会計をすると、おしぼり代70円がプラス。なるほど、これが席料か。たしかに厚手のおしぼり、いただきました。
最後にロシアの話を。スターリン時代は禁止されていた西側のロック、つまりビートルズやプレスリーを聴くため、若者たちは使用済みのレントゲン写真に溝を刻み「肋骨レコード」を作成。闇市で密売して聴いていた。実は若きプーチン大統領もそれをこっそり聴いていたという。時は流れ2003年、ポール・マッカートニーが初めてロシアを訪れ「赤の広場」で十万人以上の観客を前に演奏した時、そのプーチンも来場。騒ぐ観客に「ステージに集中しなさい」と苦笑いを浮かべていた。え? なんでロシアの話かって? 米と露でベーロベロよ。ねえ、おあとがよろしいようで。
【 Back In The U.S.S.R. / Paul McCartney】
寅間心閑
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