一.マコウレイ&マクロード

ここ最近、赤丸急上昇のボヤきといえば「食えなくなったなあ」一択。経験できる事柄が明らかに減るのはやはりつまらない。こんな時は身体に無理をさせても仕方ないので頭を使う。手っ取り早いのは「食えなくなった」と嘆く諸先輩がたに倣うこと。思い起こせば「美味いモノをちょっとずつがいい」とも言っている。即ち幕の内弁当タイプ。思い当たること、なくもない。最近、町中華呑みが難しい。すぐに腹が膨れてハシゴできなくなる。まあ、個人的には何軒目でも6Pチーズがあればいいのだけど、それだと角打ち以外に足を伸ばせない。ということで幕の内を軽く意識しながら店選び。まずは昼から飲ませる虎ノ門の蕎麦屋「O」。暖簾をくぐると「お蕎麦? お呑み?」と尋ねられる。大きなコの字カウンターに腰掛けるとお通しは小皿三種。これ、550円。贅沢と思うのは早とちり。看板には「きりたんぽ鍋」が200円とある。品数多い肴は殆どがこの価格。そして此方、実は大瓶が250円。一本迄だが明らかに異常事態。その他の飲み物も殆ど350円。こりゃ堪らん。幕の内云々、いや、ハシゴ云々を忘れちまいそう。熟考の末、たらこの天ぷらをオーダー。好物だけれど流石に天ぷらは初めて。コロンとした揚げたてを軽く齧ると、なるほど美味い。グッとテンションが上がり、選から漏れた煮穴子もオーダー。気付けばお通し分の小皿も併せて卓上は幕の内状態。
レコード、テープ、MD、CDを経て今やサブスク。色々御意見はあるけれど、こういうモノは総じて一長一短。言い出せばキリがない。理想は全ての楽曲が聴けること。でもきっとそれは叶わない。そもそもCD登場~全盛期にも同様の問題はあって、例えばザ・フーとシャム69の1st盤はなかなかCD化されなかったし、シングルのみのバンド/アーティストの音源は意外と未CD化だったりする(ジャンル不問)。いざCD化される時は大抵コンピレーション盤。レーベル別、時代別、独自のテーマ別等々、束ね方は多種多様。そうそう、60~70年代のソフトロック界隈を聴き進める際はコンピ盤が便利。当時はシングル盤主流の時代。元々パーマネントなバンドより、プロデューサー主導の「覆面プロジェクト」、謂わば実体のないセッション・グループが多いジャンルの為、結果が出なければ即打ち切りに。そのため売れなかった知らざれる名曲が数多く放置された。それらをCDとして「復刻」する時は寄せ集めてコンピ盤にする。寄せ集め、なんて響きは悪いが目的はチャートインなので一曲一曲はどれもキャッチー。甘めの三分間をちょっとずつ味わえる。お勧めのコンピ盤は名ソングライターチーム、トニー・マコウレイとジョン・マクロードの作品集、二枚組の『バターカップス&レインボウズ』(’01)。今回お聴きいただく「Sleep Tight Honey」(’69)はそこで出会った逸品。無論The Committee は実体なきセッション・グループ。このデビュー曲が本国イギリスでもチャートインしなかった為、これ以降リリースはナシ。一発屋にさえ遠く届かなかったが、内容は紛れもない高品質。
【 Sleep Tight Honey / The Committee 】
二.ホセ・アルベルト

美味いモノをちょっとずつ、は海外にもあってスペインならピンチョス。バスク地方のフィンガーフード。一口サイズを串に刺したアレ。初台に最近オープンした「H」はその専門店。馴染みがないからと一瞬躊躇するも立ち飲みスペースがあるので入りやすく、予想以上にピンチョスの種類が豊富。サーモンとアリオリソース、牡蠣のアラビアータ等々、見た目からして美味しそう。しかも180円~。おお有難い。フレンドリーなスタッフさんと話しつつ未知の扉を開け、最後は品揃え豊富なシェリー酒を久々に堪能。濃厚なウニのスープを肴にちびちびと。
国内で売れたコンピ盤といえば、90年代半ばにスタートした「MAX」シリーズと「NOW」シリーズ。洋楽ヒット曲を詰め込んだ内容に興味はなかったけど、2000年代の「100%」シリーズはよく聴いた。役割としてはカタログ。後にレゲエ、スカ、ヒップホップ、と派生するが最初はサルサ。『100% SALSA』再発盤の一曲目、ホセ・アルベルトの「A La Hora Que Me Llamen Voy」(’95)に未知の扉を一発でこじ開けられた。それまで腰が動く音楽といえばファンクだったが、これ以降、より複雑なサルサのリズムに魅せられてしまう。
【 A la Hora Que Me LLamen Voy / Jos? Alberto 】
三.安藤昇

邦楽でもコンピ盤には世話になっている。パンク、ハードコアの怪しげなバンドに、昭和のやさぐれたGS、近頃人気のシティポップ辺りは優秀なコンピ盤が揃っているし、門外漢だった映画音楽も一旦カタログ的に聴くことで楽しみ方を見つけやすくなった。作曲家別なら中村八大の四枚組『上を向いて歩こう』(‘99)、筒美京平のレコード会社別の「ウルトラ・ベスト・トラックス」シリーズ(‘98~)は充実したテキスト。老若男女すべての音楽好きに推薦できる。ただ個人的に最も重要なラインナップは、一見その真逆に位置する「幻の名盤解放歌集」シリーズ。素材はクセの強すぎる廃盤レコードなので、どうしても裏モノ臭は強くなるが、それらを束ねるのは「すべての音盤はターンテーブル上で平等に再生表現される権利を持つ」という反論の余地がない真実。その傘下で出会った名作は数あれど、正規のテキストとしての役割も兼ね備えているのは元愚連隊の俳優、安藤昇のシングル曲だろうか。お聴きいただく「港祭り」(‘77)はヒットメーカー宇崎竜童&阿木燿子作。曲中の任侠的主張にも反論の余地はなく、だからこそ美しく、だからこそはみ出てしまう。
昨日、数年振りに立ち寄ったのは大井町の立ち飲み「U」。ノドグロ炙り刺し600円。ヤリイカのキンキ肝和え塩辛風300円。この圧倒的な事実に対抗する言葉はなかなか見つからない。しかも静かでぶっきらぼうな店内。最高の贅沢に浸りながらの脳内BGMは安藤昇一択。もちろん反論の余地はナシ。450円の缶ビール片手に自然と背筋が伸びる。
【港祭り / 安藤昇】
寅間心閑
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