%e6%9c%88%e3%81%be%e3%81%a7_08_cover_01「僕が泣くのは痛みのためでなく / たった一人で生まれたため / 今まさに  その意味を理解したため」

「僕」は観念として世界に対峙する。孤独から滲む透明な抒情──。「僕」とは切り取られた世界そのものでもある。画像によって喚起されたペルソナ手法による、小原眞紀子の連作詩篇。 

by 小原眞紀子

 

 

 

 

まるい頭をみっしり並べ

あんぐり口あけて

見上げている

宇宙の鍋底

焦げついて真っ黒である

ときどき火花が散る

わぁとどよめく

色のちがう火花が奔る

わぁとどよめく

飽かず見つめている

瞳に華をうつす

自分たちも

明日を待たず

闇に身を投げる

滔々と流れる大川は

天の川がいっぽん抜けた

ところで流れつく先は

鍋底である

憂き世に焦げついて

真っ黒になりながら

わぁとどよめく

もうひとつ火花が散る

宇宙のかぎりなさに

気づいた瞬間に果てる

まるで自分たちみたいだと

わぁとどよめく

そのとき鍋底が抜けて

どしゃぶりになる

踏みにじられる散華である

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僕は極北をめざす

空気が震えるところ

風が鳴るところ

水が青くなるところへ

どこまでも歩く

実りの田や

看板のある店先を抜けて

人に訊ねられれば

真っ直ぐに指差す

磁石の北は

じっと見つめると

平面の宙に浮く

さまよう世に

神の視線もおよぐ

北の海では

波が線をえがく

太くうねりながら

じょじょに細くなり

魚たちを釣り上げて

腕に抱える

神のことを考えると

僕は苦笑を禁じ得ない

白鬚とともに

鼻水が凍っている

くしゃみが出るくらいだから

ここはまだ世のなか

僕は極北をめざす

ひと掬いの水が立ち上がり

時がとまる場所へ

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君の瞳は雲を浮かべ

僕を見る

木の影のように

棚の隅のインク壺のように

その姿は映らない

僕は透きとおった闇であり

それゆえ辛うじて

意味の痕跡がある

ここに、と背中を指差すと

君は目を凝らし

同じね、と呟く

この世のすべての事物と

そうして本を読みはじめる

闇の奥で眼を見開いて

僕はそっと足を踏み出す

出て行ったところで

誰も気づきはしない

この世からいなくなっても

誰も咎めはしない

ただの暗い部屋だから

窓の外で声がする

僕を呼ぶのは

波うつ光が描く

たったひとつの文字

耳もとで囁かれる意味

ちょっと振り返ると

君は話している

闇のなかで

僕と見分けのつかない誰かさんと

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写真 星隆弘

 

* 連作詩篇『ここから月まで』は毎月05日に更新されます。

 

 

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■ 小原眞紀子さんの本 ■

水の領分 メアリアンとマックイン

 

■ 予測できない天災に備えておきませうね ■