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早稲田文学新人賞受賞作家にして、趣味は女装の小説ジャンル越境作家、仙田学のラノベ小説!

by 仙田学

 

 

 

第六章 スキンヘッドは心の鏡(上)

 

 

小春日和の十二月。

空港には家族連れ、スーツ姿のサラリーマン、制服姿の修学旅行生、スノボーの板を抱えた大学生らしき集団が、ひしめきあっていた。

「いーちゃん、ぇいぃちくん、こっちこっち★」

季節外れの風鈴のような、涼しげなあの声は。

「ょかったぁ★ごめんねごめんね、ふらどーしても空港でお買い物したかったのぉ」

兎実さん。

さらさらストレートロングの黒髪には、冬のやわらかな光が天使の輪っかを作っている。

肩に羽織ったピンク色のトレンチコートの下は、純白の、フリルたっぷりのワンピースだ。

バニラアイスクリームのように滑らかで真っ白な肌。

天国から引っ越してきた天使が挨拶まわりをしているような愛らしさだった。

「ふらりーん! いいんだよ、三日間もずっと一緒なんだもん。嬉しいね!」

未来と兎実さんが手を取りあって飛び跳ねる様子を、ド派手な音を立てて一眼レフで連写しているのは蛸錦だ。

蛸錦の両腕には紙袋が大量にぶらさがっている。兎実さんの買い物につきあわされていたらしい。

旅行に出発する前に土産物の購入をすませ、下僕に運ばせて優雅に撮影されている。

この優雅さこそ、兎実さんをクラスのアイドルへと押しあげた原因だ。

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兎実さんと密着している未来は顔バレを避け、サングラスとマスクとマフラーで肌の露出を最小限に抑えている。

だが薄手のトレンチコート越しにも、細身ながら肉づきのいい肢体の線がはっきりと見てとれる。モデルのオーラが濃密に匂いたっていた。

ふたりのまわりには、足を止め、首を傾げながらうなずきあい、こちらを指さしてひそひそ話をするひとびとが溜まりだした。

「お。いたいた。〇・一秒でわかったよ。おまえらと待ちあわせんのに目印いらねーな」

目が痛くなるほど真っ白に輝く歯を剥きだして、近づいてきたのは池王子だ。

「あんた……頭大丈夫? 手ぶらで修学旅行行く気?」

未来が首を振るのも無理はない。

池王子は三百六十度どこから見ても完璧に手ぶらだった。

白いTシャツにカシミヤのカーディガンを肩にかけ、両手は白いチノパンのポケットに突っこんでいる。

イギリス風庭園を散策中の英国おぼっちゃまのようないでたちだ。

こいつこそ、未来以上に行き先を勘違いしてないか?

「まさか。どっからそんな発想でてくんだ」

池王子は失笑しながら口笛を吹き、手を振った。

「珍太郎ぼっちゃま! 困ります。ひとりでどんどん先に行かれては」

……ひと波を縫って池王子の背後から現れたのは!!

メイドだった。

豊かな黒髪は高い位置でポニーテールに結ばれている。

やわらかな羽毛のようなフリルのたっぷりとついた青いワンピースに純白のエプロン。

ほっそりとした脚は黒いニーハイに包まれていた。

おれたちよりおそらくいくつか年上のメイドさんは、ボストンバッグを載せたキャリーケースを両手で引いていた。

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「おまえが遅いんだよ。ったく。手荷物だけ寄越して、あとは預けといてくれ」

ぞんざい極まりない口調で池王子がいい捨てる。

メイドさんはボストンバッグから小さなセカンドバックを取りだして池王子に渡した。

「どうぞ。ぼっちゃま。六班のみなさまですね。歯ぎしり寝言でご迷惑おかけするかもしれませんが、なにとぞよろしくお願いいたします」

両手を太ももにあて、メイドさんは深ぶかと頭をさげる。

「おいおい、余計なこといわなくていーんだよ」

メイドさんの頭を、池王子は顔を赤らめながら優しく叩く。

「ぉばさんあのね、いまから学校のみんなで修学旅行ぃくんだぁ。部外者は、ついてこれないんだょ」

池王子とメイドさんのあいだに両手を広げて割りこんできたのは、兎実さんだ。

三日月形の目でメイドさんに笑いかける。

だがその目からは、最高に邪悪な波動がほとばしっていた。

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すぐ横を通りがかったベビーカーのなかで、火のついたように赤ん坊が泣きだした。

「ごめんなさい、私ったらでしゃばっちゃって。すぐ帰りますね。あの、その前に、気になってたんですけど」

メイドお姉さんは真正面からおれに微笑みかけると、すっと近づいてきた。

そのままおれの頭に両手を絡ませ、優しく引き寄せる。

香水の香りと髪のにおいが鼻腔をくすぐった。

大きな潤んだ目がおれの目をまっすぐに覗きこんでくる。

朝露に濡れた果実のような唇が薄く開き、熱い吐息がおれの頬にかかった。

「朝っぱらからなにやってんだ、このエロガッパ!」

おれを背後から羽交い絞めにして、メイドのお姉さんから引きずり離したのは未来だった。

「あっ。あっ。ご、ごめんなさい。髪に、埃がついてたものですから」

透けるように白くて細いメイドお姉さんの指には、小さな糸くずがついていた。

おれの体からでてきたゴミがこんな綺麗なお姉さんの指に付着しているなんて。

おれは恥ずかしさで身悶えた。

「なに興奮してんのよ! あんた旅行行く気あんの? ねえ!!」

羽交い絞めにしたまま、未来はおれの体を全力で揺さぶる。

「ややこしいことになってきたから、先に荷物持ってってくれ。ちなみにこれ、うちのメイドな」

「ミレイと申します。あの、みなさん、なにとぞ珍太郎ぼっちゃまをよろしくお願いいたします。至らないところもありますが……」

「だーっ、もういいから、早く行けってば」

池王子に軽く手で追い払われたミレイさんは、捨て犬のような目で振り返り振り返りキャリーケースを押して遠ざかっていった。

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「なんだあおい、羨ましすぎるぞ、メイドさんと。メイドさんの」

前からおれにしがみつき、襟首を締めあげてきたのは蛸錦だ。

写真を撮るのも忘れてミレイさんに見惚れていたらしい。

前から後ろから揺さぶられ、おれが脳震盪を起こしかけたところで、

「あと十五分で搭乗時間になる」

と聞き覚えのある声が聞こえた。

毛糸の帽子を目深にかぶり、黒いピーコートをまとった小柄な少女が立っていた。

マフラーでなかば顔が覆われているが、ぐるぐるメガネはまぎれもなく羊歯のものだった。

「ぇえたぃへん★乗り遅れたら修学旅行の積立金パァになっちゃう」

「大丈夫だって。最悪うちのセスナでみんなまとめて送ってやるから。喉渇いた。コーヒー飲みいこうぜ」

「イケチンたまにはいいこというじゃん。あんたのおごりね」

「ぃけくんさすがぁ★ふらフルーツポンチがいいな(はあと)」

「ダメだダメだダメだ。団体行動乱しちゃ。学年全体に迷惑がかかっちゃう」

ぞろぞろと喫茶コーナーへ移動し始めた一行の前へ、おれは両腕を広げて立ちふさがった。

いまさらになって気がついたのだ。この班には仕切れる者がいないということに。

くずりだす未来。

女子とすれ違うたび軽口を叩くイタリア人ノリの池王子。

のんびりまったり土産物を物色しようとする兎実さん。

ミレイさんを撮影できなかったことがよほど心残りなのか、一眼レフをうなだれて歩く蛸錦。

まがりなりにも一行が搭乗口へ迎えているのは、最後尾に羊歯がついて歩き、

「あと十四分。あと十三分」

と一分刻みにカウントしているからだった。

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一分でも早く辿り着こうと、おれは未来のスーツケースを転がして小走りに進む。

しかし、このスーツケース、クソ重てぇ。

手ぶらの池王子をからかうのもいいが、たかだか二泊三日の旅行にどんだけ持ってくんだ。

なかに死体でも入ってんのかよ、などとブラックなジョークを口にする勇気も暇もなく、おれは一目散に足を運んだ。

 

フライト時刻の一分前に、おれたちはなんとか機内に駆けこんだ。

CAさんに追いたてられるようにして満席の機内を横切っていく。

「ふたりがけの席が三列か。異様に狭苦しくねーかこの席」

どでかい声で感じたままを口にする池王子に、

「修学旅行だもん、エコノミーに決まってんじゃん」

と未来は返し、座席の背に手をかけて力まかせに押しだした。

「おいおい、新幹線じゃないんだ、対面式にはできないって」

おれは慌てて未来をとり押さえる。

「へ? だって六人もいんだよ。どうやって座るの」

機内アナウンスに急かされ、おれはとりあえず未来の肩を掴んで最後列に押しこんだ。

「ほらほら窓ぎわだぞ、お外だお外。楽しいなあ」

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よし! 未来、このタイミングで兎実さんを隣に呼んでくれ!

放っとくと兎実さんは池王子の隣に座るに違いない。

ほんの数時間とはいえ、至近距離でそんな図を見せられるのは拷問に等しいからな。

「どしたのあんた。目にゴミでも入ったん?」

未来はあくびをしながらおれを見あげる。

そうだった、おれはウインクができないんだった。顔をしかめてまぶたを痙攣させているようにしか見えないだろう。

いたしかたない、ここはおれが呼ぶしかないか。

振り返ったおれは、目を疑った。

「羊歯ちゃん、通路側でぃい? おトイレ行きやすいょ★」

兎実さんが相席の相手に選んでいるのは、羊歯だったのだ。

ふたりの頭越しに、池王子と蛸錦が軽くもめている。

「えー、なんでおまえと一緒なんだよ。おれは円山の横がいいんだって。未来様の特ダネ情報をリークしてもらわないと、今月号のファンクラブ会報に間にあわな……」

「だー、おまえ何年円山の友だちやってんだよ、空気読めよ空気」

「そぉだょタコくん、いろんな意味で」

珍しく兎実さんはふくれっつらをしている。

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「ここまで空気読めないのも、才能だと思う」

ぽつりと呟いたのは、羊歯だった。

シートの背もたれ越しに羊歯の向けてくるぐるぐるメガネの奥で、切れ長の目が静かに揺れた。

羊歯はおれを見つめていた。

まるで空気を読めていないのはこのおれだというように。

ようやく、おれは気がついた。

池王子が蛸錦を誘ったのは、兎実さんから逃れるため。

池王子に避けられた兎実さんが羊歯を選んだのは、未来と隣りあわせにならないため。

なぜかっていうと。

おれと、未来を隣りあわせにするため?!

おかしな話だが、そうとしか考えられなかった。

「ねえ、映一、おなかへった。お菓子ちょうだい」

おれのダウンジャケットの裾を引っぱる未来を、池王子はまっすぐに指さした。

「特ダネなら目の前に転がってるじゃねえか。会報の表紙にしてやれよ」

「へ。ま、円山まさか」

「やーんタコくん知らなかったの? いーちゃんとぇいいちくん、幼なじみの許婚なんだよ★」

兎実さんは三日月形の目でおれたち全員に微笑みかけてみせる。

「なにふらりん? イイナ漬けって、お漬物?」

笑顔で立ちあがる未来に、兎実さんはシートから乗りだして抱きついた。

「いーちゃんいーちゃん、結婚式にわ呼んでね★ぜったぃだょ! ふら、いーちゃんのブーケほしぃんだぁ♪ そしたら、誰かふらのこともらってくれるかなぁ」

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「おれを見たってなんにもでてこねえよ」

「ぃけくんゃあん★ふらまだなんにもゅってなぃょ」

未来に抱きついたまま、兎実さんは顔を赤らめて身をくねらせる。

「ブーケ? ふらりんなにそれ、おいしいの?」

「兎実さん違う、濡れ衣なんだ!! 未来はただの……」

おれは誤解を解こうと試みる。

「ぇぃいちくん、恥ずかしがらなくてぃいんだょ! みんな応援してるから★いーちゃんのこと、ょろしくお願いしますぅ~♪ こうして並ぶと、ふたりお似合いだね(はあと)」

未来の頭をなでなでしながら、兎実さんは輝くような笑みをおれたちに振り撒き、

「さっ座ろ★」

とシートの向こうへ沈んだ。

「兎実さんっ」

宙に手を伸ばしたおれの肩を押さえたのは、羊歯だった。

「もう離陸する時間だから。ベルト締めないと」

ぐるぐるメガネの奥の目が心なしか吊りあがって見えるのはなぜだろう。口もへの字に引き結ばれていて、まるで怒ってるみたいな。

「いででででっっっ肩がっ、肩があっ!」

「映一! ふざけてないで早く座んな!」

「羊歯ちゃんも座んないと★CAのぉばさん睨んでるょ」

脱臼したかと思われるほどの肩の痛みをこらえながら、おれはシートに倒れこんだ。

(第14回 了)

 

* 『ツルツルちゃん 2巻』は毎月04日と21日に更新されます。

 

 

 

 

 

■ 仙田学さんの本 ■

盗まれた遺書 ツルツルちゃん キャラ設定画付kindle限定版 (NMG文庫)

 

■ 予測できない天災に備えておきませうね ■